霊廟の戦い
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翌朝。
朝日に照らされた霊廟は、昨夜の不気味な紫色の光が嘘のように静まり返っていた。
ターケシは調査隊が集まると、昨夜の出来事を報告する。
「夜半過ぎから霊廟の内部が紫色に発光した。夜明けまで断続的に続いたが、それ以外の異常はない。スケルトンも魔物も現れなかった。」
エドガーは腕を組み、小さく頷く。
「……なら予定どおり調査を進める。まずは外周からだ。」
軽い朝食を済ませ、一行は探索を開始した。
霊廟の周囲を隅々まで調べる。
崩れた石材。
風化した石碑。
草に埋もれた古い階段。
見つかったのは、白く風化した骨片がいくらかだけ。
他に異常は見当たらない。
「外には何もありませんね。」
調査員の一人が呟く。
「中へ入る。」
エドガーの号令で、一行は霊廟へ足を踏み入れた。
先頭はシフォン。
灰色の耳をぴくりと動かし、鼻を小さくふんふんと鳴らしながら慎重に進む。
その後ろをターケシ。
そしてロザリアとフィリアは調査隊と歩調を合わせ、床や壁面を調べながら進んでいく。
長い回廊。
昨夜見た紫色の光など最初から存在しなかったかのように静まり返っている。
異常はない。
やがて広間へ出た。
床を叩く者。
壁面を調べる者。
柱の彫刻を確認する者。
時間をかけて調査したが、見つかったのは床に散らばるわずかな骨片だけだった。
「ここも違うか……。」
エドガーは眉をひそめる。
残るは最奥部。
円形の祭祀場だけだった。
中央には古びた祭壇。
周囲には何もない。
一人ずつ慎重に調べていく。
「……何もありませんね。」
ミリアが祭壇の奥へ歩み寄る。
そして、一番奥の石壁へそっと手を触れた。
その瞬間だった。
ゴォォォッ──
床全体が眩い紫色に染まる。
魔法陣。
いや、霊廟そのものが発光している。
「これは──!」
ターケシが叫ぶより早かった。
魔法陣から湧き出た無数の骨片が、まるで見えない糸に引かれるように宙へ舞い上がる。
音を立てて組み上がる。
腕。
脚。
肋骨。
頭蓋骨。
次々と形を成し、紫色の眼窩に灯がともる。
カタ……。
カタカタ……。
ガシャッ!
何十体ものスケルトンが、一斉に立ち上がった。
「ひっ……。」
調査隊の一人が息を呑んだ。
祭祀場を埋め尽くす明白な敵。
出口はすでに骨の群れに塞がれている。
前も、横も、後ろも敵。
完全な包囲だった。
誰もが一瞬、足を止める。
その静寂を切り裂いたのは、ターケシの声だった。
「全員、固まれ!」
動揺しかけた調査隊が、反射的にターケシの周囲へ集まる。
「ロザリア!」
「出口に向けて、一発かませろ!」
「はい!」
ロザリアは迷わなかった。
一歩前へ踏み出し、静かに両手を突き出す。
青白い魔力が足元から立ち昇り、透明な水が空中へ集まり始める。
一滴。
十滴。
百滴。
瞬く間に激流となり、槍のように圧縮されていく。
霊廟の空気が震えた。
「――水の槍よ!」
轟音。
圧縮された激流が一直線に放たれる。
先頭のスケルトンへ命中した瞬間、水は弾けなかった。
膨大な質量と速度を保ったまま、骨格を粉砕する。
砕けた骨は後続へ叩きつけられ、その衝撃がさらに次のスケルトンを吹き飛ばす。
一体。
二体。
五体。
十体。
激流は勢いを失わない。
まるで巨大な河川が狭い回廊を逆流するように、出口まで一直線に突き進む。
立ちはだかるスケルトンは次々と粉砕され、壁へ叩きつけられ、骨片となって床を転がった。
轟音が止む。
激流は消え、霊廟に静寂が戻る。
そこには、先ほどまで骨の軍勢で埋め尽くされていたはずの回廊があった。
出口まで、一本の道がまっすぐ伸びている。
誰もが言葉を失った。
「……道が。」
調査隊の誰かが呆然と呟く。
エドガーも目を見開く。
「退路を……一撃で開いたのか。」
ターケシは剣を構え直し、わずかに口元を緩めた。
「よし。」
「囲まれてはいない。」
その一言で、調査隊の表情が変わる。
絶望は消えた。
逃げ道がある。
ならば、戦える。
ターケシは剣先を正面へ向ける。
「いったん外に出るぞ!」
その号令とともに、一行は一斉に前へ踏み出した。
◇
砕けた骨が床を転がり、閉ざされていた退路が一本の道となって現れている。
ターケシは一瞬で状況を見切った。
「シフォン!」
「はい!」
「調査隊を出口まで誘導しろ!」
シフォンは大きく頷くと、灰色の耳をぴんと立て、鼻を小さくふんふんと鳴らした。
「みなさん、こっちです! 走ってください!」
不安で足の止まっていた調査隊を励ましながら、先頭に立って駆け出す。
「ロザリア!」
「はい!」
「近接援護だ! 調査隊を近づけさせるな!」
先ほどの一撃で大量の魔力を放出したロザリアは、もう大魔法を続けて放つつもりはなかった。
腰のレイピアを素早く抜き放つ。
「承知しました!」
出口への道を再び塞ごうとするスケルトンへ踏み込み、一閃。
骨だけになった腕が宙を舞う。
返す刃で頭蓋骨を砕き、そのまま体をひねって三体目の膝を断ち切る。
剣筋は無駄がなく、美しかった。
騎士として積み重ねてきた鍛錬が、そのまま命を守る技となっている。
「フィリア!」
「任せて。」
フィリアは一歩下がり、素早く矢を番えた。
弦が鳴る。
一本。
二本。
三本。
放たれた矢は正確にスケルトンの眼窩や首の継ぎ目を射抜き、前へ出ようとした敵の動きを止める。
倒すことより、足を止める。
それだけで十分だった。
その隙に調査隊が出口へ向かって駆け抜けていく。
そしてターケシは最後尾へ回る。
盾を構え、迫り来る骨の軍勢へ正面から向き合った。
「後ろはおれが食い止める!」
スケルトンの剣が一斉に振り下ろされる。
甲高い音とともに、盾へ次々と打ち込まれる刃。
だが、ターケシは一歩も退かない。
「一気に外へ出ろ!」
その声に背中を押されるように、シフォンに導かれた調査隊は回廊を駆け抜けていく。
ロザリアの剣が退路を守り、
フィリアの矢が追撃を封じ、
ターケシの盾が最後の壁となる。
四人はそれぞれの役割を全うしながら、調査隊を霊廟の外へ逃がしていった。




