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群青色の空と紫色の光

https://51577.mitemin.net/i1189462/

白聖王の霊廟へ到着した頃には、太陽は山の向こうへ半ば沈みかけていた。


夕日に照らされた白い石造りの霊廟は、神々しさよりも静けさを漂わせている。


風が吹く。


何か話そうとしたエドガーを遮って、沈黙を破ったのはターケシだった。


「今日は中へは入りません。」


調査団の面々が彼を見る。


「日没まで、あと一時間もありません。」


「暗くなってから未知の遺跡へ入るのは危険です。」


ベネディクトが何度も頷いた。


「確かに……。」


「焦る必要はありませんな。」


ターケシは霊廟の正面から少し離れた平地へ目を向ける。


「今夜はここで野営します。」


「ただし、テントは張りません。」


「え?」


ミリアが首を傾げる。


ターケシは二台の馬車を指差した。


「何かあれば、すぐ馬で離脱できるようにします。」


「皆さんは馬車の中で休んでください。」


「焚き火は外で。」


「私たちが交代で警戒します。」


リディアは腕を組み、小さく頷く。


「合理的だ。」


エドガーも微笑んだ。


「その案で進めましょう。」


ターケシは仲間へ向き直る。


「ロザリア。」


「フィリア。」


「野営の準備を頼む。」


「分かりましたわ。」


「了解。」


「シフォン。」


「はい!」


「周囲を見て回る。」


「まだ中へは入らない。」


「外だけ確認するぞ。」


「はい!」


灰色の耳がぴんと立つ。


二人は霊廟へ向かって歩き出した。


石段へ近付く。


古びた白い石。


割れた柱。


雑草が石段の隙間から伸びている。


鳥の鳴き声がしない。


虫の羽音も聞こえない。


風だけが、白い石壁を撫でていく。


静かすぎた。


ターケシは足跡を探す。


土を観察する。


新しい痕跡は見当たらない。


その時だった。


「……ご主人様。」


シフォンがしゃがみ込む。


灰色の耳がぴくりと動く。


石段の隅を指差した。


「これ……。」


白っぽい粉が残っている。


砂ではない。


石でもない。


ターケシもしゃがみ込む。


指先で砕く。


鼻先へ近づける。


土の匂いではない。


石灰とも違う。


「……骨だ。」


「人の骨の欠片だ。」


シフォンの表情が強張る。


「じゃあ……。」


ターケシは石段を見上げた。


夕日に照らされた霊廟は変わらないはずだが、先ほどまでと違って見えた。


「スケルトンが現れるという噂。」


「……本当かもしれない。」


風が吹く。


乾いた白い粉が、ゆっくりと石段の上へ舞い上がった。


ターケシは骨の欠片を布で丁寧に包み、懐へしまった。


「戻ろう。」


「はい。」


シフォンはもう一度だけ霊廟を見上げる。


夕日に染まる白い石段。


風に舞う白い粉。


その奥。


誰もいないはずの入口の闇が、一瞬だけ紫色に揺らめいたように見えた。


「……ご主人様。」


「見えたか。」


「うん……。」


ターケシは霊廟から目を離さない。


「ああ。」


「明日の朝、念入りに探索しよう。」


二人は踵を返した。


野営地では焚き火の煙が静かに立ち上っている。


ロザリアとフィリアは薪を組み終え、ミリアは夕食の準備を手伝っていた。


ターケシは焚き火の前へ腰を下ろす。


「皆さん。」


調査隊の視線が集まる。


ターケシは懐から布包みを取り出した。


静かに開く。


中には白い粉と、小さな骨片。


「霊廟の石段で見つけました。」


ベネディクトが息を呑む。


マティアスは胸元で静かに祈りを捧げた。


「……人骨ですか。」


エドガーが尋ねる。


ターケシは頷く。


「間違いありません。」


「人の骨です。」


その場に重い沈黙が落ちる。


ターケシは続けた。


「スケルトンが現れるという噂。」


「本当である可能性は高いでしょう。」


ミリアの表情が青ざめる。


「じゃ、じゃあ今夜も……。」


「落ち着いてください。」


ターケシは穏やかな声で遮る。


「これまで襲われたという者はいません。」


「霊廟へ近付かなければ危険は少ないと考えています。」


「十分な距離を保ちます。」


「私たちが交代で警戒します。」


リディアも静かに頷いた。


「妥当な判断だ。」


「異論はない。」


エドガーも一同を見回す。


「本日はターケシ殿の提案どおり進めます。」


調査隊の表情から少しだけ緊張が和らいだ。


ターケシは今度は仲間へ向き直る。


「聞いてくれ。」


三人が姿勢を正す。


「日没から夜明けまで交代で見張る。」


「最初は俺。」


「次にシフォン。」


「最後はフィリア。」


「3時間ごとに交代だ。」


「はい!」


シフォンが力強く返事をする。


「了解。」


フィリアも短く頷く。


ターケシはロザリアを見る。


「ロザリア。」


「お前は寝てくれ。」


「え?」


「火魔法は切り札だ。」


「明日、本番で魔力を使うことになる。」


「今夜は温存してほしい。」


ロザリアは少しだけ不満そうな顔をした。


「ですが……。」


「ロザリア。」


「明日は、お前の火魔法が一番頼りになる。」


「だから今日は休んでくれ。」


ターケシは穏やかに言う。


「何かあれば全員起こす。」


「危険がなければ、また寝てもらう。」


ロザリアはしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。


「……分かりました。」


「しっかり休みます。」


焚き火が小さく爆ぜる。


空はすっかり群青色へ変わり始めていた。


誰もまだ知らない。


今この焚き火の温もりが、


明日から始まる長い夜を思えば、


あまりにも穏やかだったことを。

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