馬車の出発
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王宮前の広場には、二台の馬車が用意されていた。
荷台には調査用の道具や食料が積み込まれ、馬たちは静かに鼻を鳴らしている。
「それでは出発いたしましょう。」
エドガーが穏やかに微笑み、一台目の馬車へ手を向けた。
「皆様、ご乗車ください。」
その時だった。
「一つ、お願いがあります。」
ターケシが静かに口を開く。
「できれば、一台目の御者を私に務めさせていただけませんか。」
その場の全員が一瞬だけ驚いた。
「御者を……ですか?」
エドガーが眼鏡の奥で目を瞬かせる。
ターケシは頷いた。
「何か起きてから飛び出していては、間に合わないことがあります。」
「御者であれば周囲を警戒しながら進めますし、異変にもすぐ対応できます。」
「護衛として、その方が都合がいいと考えました。」
しばらく考えていたエドガーは、小さく笑みを浮かべる。
「……なるほど。」
「分かりました。」
「では一台目はターケシ殿にお願いします。」
その言葉に、リディアが一歩前へ出た。
「ならば二台目は私が御者を務めよう。」
短く言って手綱を受け取る。
準備が整い、それぞれが馬車へ向かう。
すると、シフォンが勢いよく手を挙げた。
「はい!」
「私はご主人様の隣がいいです!」
迷いのない一言だった。
ターケシが苦笑する。
「狭いぞ。」
「大丈夫です!」
その様子を見ていたフィリアが、ロザリアへ視線を向ける。
「……ロザリアも、ご主人の隣がいいらしい。」
「なっ!」
ロザリアの肩がびくりと跳ねる。
「そ、そんなことありませんわ!」
「私は別に……。」
言いかけてから、小さく咳払いをする。
「……で、でも。」
「ど、どうしてもというのでしたら、お隣に座って差し上げてもよろしくてよ。」
フィリアの口元がわずかに緩んだ。
「素直じゃない。」
「う、うるさいですわ。」
「じゃあ頼むよ。ロザリア。」
「ま、まったく、しかたないですわね!」
結局、一台目の御者席にはターケシ。
その左右に、嬉しそうなシフォンと、少し照れくさそうなロザリアが腰を下ろした。
二台目では、手綱を握るリディアの隣にエドガーが座り、後方にはベネディクト、マティアス、ミリア、そしてフィリアが乗り込む。
「それでは。」
エドガーの合図とともに、
二台の馬車はゆっくりと王都を後にした。
誰もまだ知らない。
この旅が、王国の闇へ踏み込む最初の一歩になることを。




