出発の朝
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翌朝。
宿の食堂には、焼きたてのパンと温かなスープの香りが漂っていた。
今日から王宮の依頼。
四人は少し早めの朝食を囲んでいる。
ロザリアがパンをちぎりながら、何気ない口調で尋ねた。
「そういえば……」
「昨夜は、お二人でお楽しみだったのかしら?」
ターケシがスープを飲む手を止める。
怪しい聞き方をするな、と言いたげにロザリアを見やる。
「夜中に部屋を見ましたら、お二人ともいらっしゃいませんでしたもの。」
穏やかな笑顔。
だが、なぜか少しだけ棘がある気がした。
ターケシが答えるより早く、シフォンが元気よく手を挙げた。
「はい!」
「とっても楽しかったです!」
「ご主人様に何度も打ち込ませてもらって!」
「たくさん受けてもらって!」
「すごくよかったです!」
食堂が一瞬、静まり返る。
「そ、そう、よかったですわね。」
その隣で、
「……ふふ。」
フィリアが小さく口角を上げた。
シフォンに言外の意味が伝わらなかったことが恥ずかしかったのか、
「……そ、そう。」
「訓練でしたの。」
ロザリアは少しだけ頬を赤くしながら紅茶に口をつける。
「ロザリアは、仲間外れにされたのが寂しくて悔しいんですよ」
フィリアがターケシにささやく。
「そ、そんなことないですわ!」
ロザリアの顔がいよいよ赤くなった。
◇
王宮正門。
白い石壁が朝日に照らされ、巨大な門が静かに開いている。
四人が門前で待っていると、一人の青年が近づいてきた。
年の頃は二十代前半。
深い紺色のローブをまとい、胸元には王宮魔導士団の紋章が刺繍されている。
眼鏡の奥の瞳は穏やかだった。
四人の前で立ち止まると、軽く一礼する。
「冒険者ターケシ様御一行ですね。」
「お待ちしておりました。」
予想していたよりも、ずっと丁寧な物腰だった。
「こちらへどうぞ。」
「応接室で今回の任務について説明いたします。」
青年に案内され、四人は王宮の中へ足を踏み入れる。
赤い絨毯。
高い天井。
磨き上げられた大理石の床。
宿や冒険者ギルドとはまるで違う空気に、シフォンは思わず周囲を見回した。
やがて一行は応接室へ通される。
すでに数人の男女が席についていた。
青年は四人へ向き直る。
「これで全員揃いました。」
「まずは今回の調査メンバー六名をご紹介します。」
和やかに自己紹介が始まって、逆にターケシは面食らった。
青年は部屋を見回し、小さく微笑んだ。
「改めまして。」
「私は王宮魔導士団所属、エドガーと申します。」
「本調査では、王宮側の責任者を務めさせていただきます。」
「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。」
その一言だけで部屋の空気が和らぐ。
主人公は少し意外に思う。
(王宮にも、こんな人がいるのか。)
隣の初老の男性が咳払いをする。
白髪交じりの髭を整え、分厚い本を抱えている。
「王立史学研究所のベネディクトです。」
「白聖王家の歴史と霊廟の構造について調査しております。」
「私は戦えません。」
「ですから、皆さんには命を預けることになります。」
深々と頭を下げた。
主人公も軽く会釈を返す。
鎧姿の女性騎士が立ち上がる。
三十代前半、短めの赤髪
背筋が真っ直ぐ伸びて、キリッとした印象だ。
「王宮騎士団第三中隊隊長、リディア。」
「調査団全体の護衛責任者です。」
リディアはターケシたちの顔を見回した。
最後にターケシで視線が止まる。
「……。」
一瞬だけ頷いた。
「皆さんも護衛任務に当たる以上、戦闘時は私の指示に従っていただきます。」
口調は厳しい。
だが威圧感ではなく、責任感が伝わる。
若い神官が胸元で祈りを捧げる。
「聖教会司祭、マティアスです。」
「霊廟で眠る御霊を弔う役目を仰せつかりました。」
「死者は敬われるべき存在です。」
「可能な限り墓所を損なわぬよう、ご協力ください。」
主人公は廃教会の骨の山を思い出す。
(この人には見せたくない光景だったな。)
最後に小柄な女性が手を挙げた。
革の鞄を肩に掛け、腰には工具が並ぶ。
「宮廷技師のミリアです!」
「罠とか仕掛けとか、そういうのを見るのが仕事です!」
「古い建物なので落盤にも気を付けましょう!」
元気いっぱいに笑う。
シフォンもつられて笑った。
エドガーが最後に言う。
「今回、護衛をお願いする冒険者の皆様。」
主人公たちも順番に名乗る。
「ターケシです。」
「シフォンです!」
エドガーは微笑んだ。
「灰狼族の方ですね。お会いできて光栄です。」
「ロザリアと申します。」
「フィリア。」
エドガーはフィリアを少し見つめ、
「失礼しました。エルフの方はこのあたりでは珍しいもので。よろしくお願いします。」
頷きながら話す。
「皆様のお噂は聞いています。」
「廃教会の事件。」
「廃鉱山の探索。」
「他にも多くの難しい依頼をこなされていると。」
「頼りにしています。」




