プロローグ
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闇が、霊廟を包んでいた。
月明かりすら届かぬ石段を、白い影が一つ、また一つと現れる。
かつて人であった骸。
朽ちた剣を握る者。
錆びた槍を引きずる者。
砕けた兜を被ったまま歩く者。
声はない。
骨と骨が擦れ合う乾いた音だけが、静寂の中に響いていた。
霊廟の最奥。
黒い祭壇の上に置かれた一冊の古びた書物。
その頁の隙間から、妖しく紫色の光が脈打つ。
鼓動のように。
呼吸のように。
光が揺らぐたび、霊廟の闇から新たな骸が姿を現した。
誰に命じられるでもなく。
誰に導かれるでもなく。
ただ、その光へと集まっていく。
まるで何かを待っているかのように。
◇
深い森。
獣すら息を潜める夜。
一頭の巨大なオーガが、岩にもたれて眠っていた。
その前に、一人の人影が立つ。
黒い外套に身を包み、顔は深いフードに隠れて見えない。
静かに右手が持ち上がる。
掌から、紫色の光が溢れた。
光は霧のようにオーガの身体へ染み込み、筋肉を脈打たせる。
ゴリ……。
骨が軋む。
筋肉が膨れ上がる。
閉じていた瞼がゆっくりと開いた。
瞳は赤ではない。
禍々しい紫色に染まっていた。
「ガァァァァァッ!」
咆哮が森を揺らす。
木々に止まっていた鳥たちが、一斉に夜空へ飛び立った。
人影は、その様子を黙って見つめている。
そして、小さく呟いた。
「……まだ足りない。」
その声だけを残し、人影は闇へ溶けるように姿を消した。
森には、狂気を宿したオーガの荒い息遣いだけが残っていた。




