異変はどこから
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薬草園の奥。
害虫駆除も終盤に差しかかっている。
巨大イナゴの群れを追い払い、巨大カメムシを駆除し、巨大毛虫も片付けた。
老夫婦も安堵の表情を見せている。
だが、フィリアだけは周囲を見渡していた。
「まだいる。」
短い言葉。
ターケシは頷く。
「俺もそう思う。」
薬草が荒らされた跡。
何かがいる。
もっと大きな何かが。
その時だった。
ガサッ。
薬草が揺れた。
風ではない。
一直線に。
まるで何かが畑を押し分けながら進んでくるように。
シフォンが鼻をふんふんと鳴らした。
そして耳をぴんと立てる。
「来ます!」
次の瞬間。
バキバキバキッ!
薬草をなぎ倒しながら巨大な影が飛び出した。
「うわぁ……。」
ロザリアが思わず声を漏らす。
それは巨大な甲虫だった。
幅は一メートル。
体長は一・五メートル近い。
全身を覆う甲殻は磨き上げた翡翠のように緑色に輝いている。
前脚には鋭い鉤爪。
頭部には大顎。
まるで巨大なカナブンがそのまま魔物になったような姿だった。
しかも。
「速い!」
シフォンが叫ぶ。
見た目に反して動きが異様に速い。
巨大甲虫は地面を蹴ると、そのまま一直線に突進してきた。
ターケシは即座に盾を構える。
「来い!」
ガァン!
凄まじい衝撃。
盾が悲鳴を上げる。
足元の土が削れた。
「……重いな。」
押し負けはしない。
だが、一人では止め切れない。
ターケシは踏み込みながら体をわずかにひねる。
突進の力を真正面で受けず、横へ流す。
巨大甲虫は勢い余って体勢を崩した。
「今です!」
シフォンが飛び出した。
猫のように低い姿勢。
一瞬で側面へ回り込む。
ダガーを振り下ろす。
しかし。
キィン!
甲殻に弾かれた。
「か、硬い!」
ターケシが叫ぶ。
「脚だ!」
シフォンは迷わない。
すぐに狙いを変える。
再び踏み込む。
銀色の刃が脚の関節へ深く食い込んだ。
ギギギッ!
巨大甲虫が苦しげな音を上げる。
脚が一本、動かなくなる。
大きくよろめいた。
「今なら転ばせられますわ!」
ロザリアがレイピアを掲げる。
火は使わない。
薬草園だからだ。
足元へ水魔法を放つ。
大量の水が地面へ染み込み、土が一気にぬかるむ。
巨大甲虫は踏ん張ろうとする。
しかし傷ついた脚が泥を掴めない。
身体が大きく傾く。
その様子をフィリアは静かに見つめていた。
そして。
「眼。」
短く告げる。
放たれた矢。
ヒュッ。
吸い込まれるように飛んだ矢は、巨大甲虫の複眼へ突き刺さった。
ギィィィッ!
甲虫が暴れる。
頭を振る。
ターケシが前へ出る。
「押す!」
盾を構え、全力で体当たりする。
泥に足を取られた巨大甲虫は耐えられない。
ずるりと滑る。
そして。
ドォン!
横倒しになった。
「今だ!」
ターケシの声が響く。
シフォンが飛び込んだ。
腹側。
甲殻農の薄い場所。
ダガーが深々と突き刺さる。
巨大甲虫は脚をばたつかせる。
一度。
二度。
三度。
そして。
静かになった。
しばらく誰も動かなかった。
やがてターケシが息を吐く。
「終わったな。」
シフォンは額の汗を拭った。
耳も尻尾も泥だらけだ。
それでも嬉しそうに笑う。
「思ったより大変でした……。」
ターケシも苦笑した。
「魔物は大きければ強いわけじゃない。」
巨大甲虫を見下ろす。
「硬い相手には、硬い場所を叩くな。」
「弱いところを探す。」
フィリアが静かに頷く。
「敵を見ることも技術。」
ロザリアも泥の付いた靴を見ながら微笑んだ。
「力任せでは勝てませんものね。」
ターケシは三人を見回した。
害虫駆除。
地味な依頼だった。
だが四人は確実に成長している。
派手な冒険だけが冒険者の仕事ではない。
そんなことを実感させる、Cランク最初の依頼だった。
その時。
ふとフィリアが森の方へ視線を向けた。
風が吹く。
木々がざわめく。
エルフの少女は小さく眉をひそめた。
「……森が騒がしい。」
ターケシもその方向を見る。
まだ誰も知らない。
この先、王都北方の森で起きる異変のことを。
そして、その異変が世界樹へと繋がっていることを。




