最初の朝
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「あ、あの……お、おはようございます、ご主人様」
囁くような小さな声。
獣人の少女だ。
黒色の髪に、灰色の耳がぴょこりと飛び出している。
年の頃は10代半ばの少女。
「ふん、やっと起きましたのね。全く、私のような高貴な身分のものが、どうしてこんな下賤の者に買われなければなりませんのかしら」
毒づくのは、獣人の少女よりは年上だろうか、金髪碧眼の美少女、と言ってよいであろう。元貴族令嬢、だったか。
ようやく体を起こした自分に、見下した視線を向けている。
もう一人いたよな、と思って部屋の隅を見れば、まだ毛布にくるまっている少女。緑の髪からとがった耳の先が見える。エルフだったな。
「……朝から元気だな」
自分でも間の抜けた声だと思った。
金髪の少女が眉を吊り上げる。
「元気ではありませんわ。不愉快なのです」
「そうか」
「そうか、ではありませんわ!」
怒鳴りかけて、金髪の少女は口をつぐんだ。
獣人の少女がびくりと肩を震わせたからだ。
その様子を見て、金髪の少女は気まずそうに視線を逸らす。
主人公は顎をかいた。
「とりあえず、飯にするか」
「……え?」
三人の声が重なる。
「腹、減ってるだろ」
昨夜からは何も食わせていない。
いや、水は飲ませた。
風呂も使わせた。
毛布も渡した。
それで十分だと思っていた。
だが、よく考えれば違う。
買った。
連れてきた。
寝た。
以上。
それでは犬猫以下だ。
主人公は立ち上がり、衣服を確認する。
「下で何か食える。来い」
獣人の少女が、おそるおそる尋ねた。
「あ、あの……私たちも、ですか」
「当たり前だろ」
少女は目を丸くした。
その反応の意味が、主人公にはすぐには分からなかった。
金髪の少女は腕を組む。
「当然ですわ。奴隷とはいえ、空腹では役に立ちませんもの」
「そういうことだ」
「……あなた、会話が雑ですわね」
「よく言われる」
部屋の隅で、毛布がもぞりと動いた。
緑の髪の少女が、半分だけ顔を出す。
「……朝食、ですか」
「そうだ」
「…毒は」
「入ってない」
エルフの少女はしばらく主人公を見つめていた。
そして小さく息を吐く。
「…分かりました。行きます」
三人が動き始める。
獣人の少女はまだ怯えている。
金髪の少女は怒っている。
エルフの少女は思考が読めない。
主人公はそれを見て、ようやく理解した。
自分は昨夜、三人を安心させるようなことを何一つ言っていない。
けれど、今さら何を言えばいいのかも分からない。
だから、まずは飯だ。
飯を食わせる。
それから考える。
それが、この世界で十年生き延びた男にできる、最初の誠意だった。




