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宿の一室にて

宿へ着いた頃には、すっかり日が暮れていた。

男が借りているのは王都南区の安宿だった。

豪華ではない。

だが雨風はしのげる。

地下闘技場時代を思えば天国みたいなものだ。

部屋へ入る。

少女たちは入口で立ち止まった。

当然だろう。

奴隷として買われた後、

どんな目に遭うか分からない。

男はそんなことに気付かない。

疲れていた。

とにかく疲れていた。

依頼帰り。

奴隷市場。

予定外の出費。

一日で色々あり過ぎた。

部屋の隅に置いてある水差しを指差す。

「水だ」

三人がそちらを見る。

「好きに飲め」

続いて部屋の奥を指差す。

「風呂もある」

宿に共同浴場が付いている。

安宿にしては珍しい。

男は荷物を降ろした。

「順番に入ってこい」

それだけ言う。

少女たちは顔を見合わせる。

男は気付かない。

というより、

考えていない。

しばらく沈黙。

金髪の少女がおそるおそる口を開く。

「あの……」

「なんだ」

「私たちは……」

言葉が続かない。

男は首を傾げる。

「寝る場所ならあるぞ」

部屋の隅を指差す。

予備の毛布。

地下闘技場時代の癖で多めに持っていた。

「今日はそれ使え」

それだけ。

男は鎧を脱ぐ。

剣を壁に立て掛ける。

盾を下ろす。

そして。

ベッドへ倒れ込んだ。

「あの」

誰かが呼ぶ。

「明日な」

男は目を閉じる。

「話は明日聞く」

それが最後だった。

数秒後には寝息が聞こえ始める。

少女たちは呆然とした。

獣人の少女が耳をぴくぴく動かす。

金髪の少女が瞬きを繰り返す。

耳の長い少女が小さく呟く。

「……寝ましたね」

「寝ましたわね」

「寝た」

部屋の真ん中。

三人だけが取り残される。

静かな夜だった。


そして翌朝。

ツンツンツン。

何かが肩に触れる。

男は眉をひそめる。

夢かと思った。

しかし違う。

確かに何かが肩に触れている。

現実だ。

「ご、ご主人」

小さな声。

「ご主人」

男は目を開ける。

灰色の耳が見えた。

ベッドの脇。

獣人の少女が立っている。

「あ、朝です。」

男はしばらく天井を見つめた。

そして思い出す。

奴隷市場。

三人。

金貨。

宿。

「……夢じゃなかったか」

少女は不思議そうな顔をする。

男は大きな欠伸をした。

そしてゆっくり起き上がる。

窓の外から朝日が差し込んでいた。

新しい一日が始まる。

朝飯どうするかな。

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