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市場から宿へ

奴隷商人から受け取った書類を腰袋へ押し込む。

ターケシは小さくため息をついた。

思ったより金が減った。

冒険者として十年かけて貯めた金貨が、ずいぶんと軽くなっている。

「……」

振り返る。

三人の少女が立っていた。

獣人の少女。

金髪の少女。

耳の長い少女。

皆それぞれ麻の貫頭衣を着ている。

誰も喋らない。

気まずい。

地下闘技場でオーガと戦う方が楽かもしれない。

「とりあえず行くぞ」

返事はない。

三人とも警戒している。

当然だった。

ターケシだって信用しろと言われても無理だと思う。

奴隷を買う人間が善人である保証などどこにもない。

むしろ逆だ。

ターケシは歩き出した。

後ろから小さな足音が続く。

石畳を四人で歩く。

夕暮れ。

王都の喧騒。

行き交う人々。

誰も気にしない。

ターケシと奴隷三人。

珍しくもない光景だからだ。

その事実が少し腹立たしかった。

しばらく歩く。

沈黙。

長い沈黙。

「腹減ってるか?」

耐えかねて話題を探し、先ほどを思い出して聞いた。

獣人の少女がびくっと肩を震わせる。

金髪の少女が顔を伏せる。

耳の長い少女はターケシを観察している。

誰も答えない。

ターケシは苦笑した。

「まあ減ってるよな」

市場に並んでいた連中がまともな飯を食わせてもらっていたとは思わない。

近くの屋台へ向かう。

肉串を四本買う。

一本を差し出した。

獣人の少女が固まる。

ターケシと肉串を交互に見る。

まるで罠でも疑うように。

「毒は入ってない」

少女は恐る恐る受け取る。

一口。

そして目を見開いた。

そのまま勢いよく食べ始める。

ターケシは思わず吹き出しそうになる。

金髪の少女は少し恥ずかしそうに受け取った。

「ありがとうございます」

かすれた声だったが、スカートの裾を摘むように手で貫頭衣の裾を持ちお辞儀した。

耳の長い少女は無言で受け取り、

一口食べてからようやく口を開く。

「…変わった方ですね」

ターケシは肩をすくめる。

「そうか?」

「…奴隷に肉を食べさせる主人は珍しいと思います」

「そういうもんか」

「…そういうものです」

ターケシは何も答えなかった。

十年前なら驚いたかもしれない。

今は驚かない。

それがこの世界だからだ。

そして少し嫌になる。

自分が驚かなくなったことに。

歩きながら考える。

どうしたものか。

住む場所。

服。

風呂。

寝床。

武器。

食費。

思った以上に金がかかりそうだった。

本当に勢いで買ってしまった。

ギルドマスターには何と言われるだろう。

きっと笑う。

「仲間がいるぞと言ったらずいぶん増えたな」

などと。

ターケシはため息をついた。

本当は違ったのだ。

形だけの仲間が一人か二人いればよかった。

Cランク昇格の条件を満たせれば十分だった。

依頼の時だけ組める相手でよかった。

背中を預けるつもりなどなかった。


ターケシは歩きながら額を掻いた。

完全に予定外だった。

本当なら。

酒場で適当な冒険者を二人ほど見繕う。

Cランク昇格の条件だけ満たす。

それで終わりだった。

そのはずだった。

ところが今はどうだ。

後ろには少女が三人。

獣人。

元貴族らしい金髪娘。

変に落ち着いたエルフ。

統一感がないにも程がある。

「……」

振り返る。

三人とも無言だった。

獣人の少女は肉串を大事そうに持っている。

金髪の少女はまだ警戒している。

エルフの少女はターケシを観察している。

誰一人信用していない。

ターケシも同じだった。

別に信頼関係を築こうとも思っていない。

とりあえず寝床を確保する。

風呂に入れる。

飯を食わせる。

それから考えればいい。

ターケシは再び前を向いた。

「宿まであと少しだ」

返事はない。

それでも三人の足音は付いてくる。

石畳を踏む四つの足音だけが、夕暮れの路地に響いていた。

ターケシは小さく息を吐いた。

面倒なことになった。元の世界なら、保護猫を引き取りにいったら勢いで三匹も引き取ってしまったようだ。

本当に面倒なことになった。

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