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奴隷市場から始まる異世界冒険譚―やり直す者たちの物語―  作者: たーけし
奴隷市場から始まって
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宴の後の約束と再出発

宴も終わりに近づいていた。

広場の喧騒は少しずつ静まり、酔いつぶれたドワーフたちの笑い声だけが、あちらこちらから聞こえてくる。

老戦士は懐から、小さな金属製の印章を取り出した。

槌と山を組み合わせた、古びた紋章だった。

「これを持っていけ。」

ターケシは印章を受け取り、しげしげと眺める。

「これは?」

「わしら一族の証だ。」

老戦士は静かに言った。

「王都へ帰ったら、オルフェンというドワーフを訪ねろ。」

「昔からあそこで鍛冶屋をやっとる頑固者だ。」

「いい鉱石でも、魔物の素材でも手に入ったら、あいつに預けてやれ。」

「腕だけは、この国でも五本の指に入る。」

ターケシは少し驚く。

「王都にドワーフがいるんですか?」

老戦士は髭を撫で、にやりと笑った。

「おるとも。」

「地上暮らしが性に合う変わり者は、昔から少しはおる。」

だが、その笑みがふっと消える。

「……ただし。」

「この街のことは話すな。」

「オルフェンも聞かぬ。」

「知っていても、知らぬふりをする。」

「それが、わしらの掟だ。」

ターケシは印章を大切に懐へしまう。

「約束します。」

老戦士はゆっくりとうなずいた。

「それでいい。」


翌朝。

ターケシたちは地下都市の門を後にした。

振り返る。

頭上には、夜空はない。

果てしなく続く岩盤の天井。

そこ一面に散りばめられた青白い魔鉱石が、まるで無数の星のように静かに輝いていた。

シフォンは思わず見上げる。

「……きれい。」

フィリアも足を止め、小さく微笑む。

「森から見る星空とは、また違った美しさですね。」

ロザリアは名残惜しそうに地下都市を振り返った。

ターケシは四人の前に広がる帰路を見つめる。

この地下には、もう一つの世界がある。

山に抱かれ、槌の音と炎に生きる人々の国。

その存在を、地上の誰も知らない。

いや――

知らなくていい。

この場所は、彼らが何百年も守り続けてきた故郷なのだから。

ターケシは胸元の印章にそっと触れる。

「行こう。」

四人は静かに歩き出した。

魔鉱石の"星空"は、いつまでも彼らの背中を照らし続けていた。


地下都市を発つ前に、ひとつだけやらねばならないことがある。

出発前の会話。

死霊術の本のこと。

――いや、エルフのフィリアは**「鎮魂の書」**と呼んでいた。

一方、ドワーフたちは**「魂喰らいの書」**と呼ぶ。

同じ一冊の本でも、種族によって名が違う。

だが、一つだけ共通していることがある。

放ってはおけない。

老戦士は石机の上へ古びた地図を広げた。

太い指が一点を示す。

「ここだ。」

人間の坑道。

その最深部。

「昔、人間の鉱夫どもが礼拝堂として使っていた場所らしい。」

「今は誰も近寄らん。」

「いや、近寄れん。」

ターケシは地図へ目を落とす。

礼拝堂。

鉱夫たちが一日の無事を祈り、亡くなった仲間を弔っていた場所。

本来なら、祈りのための場所だった。

老戦士は静かに続ける。

「いつからあの書が置かれたのかは分からぬ。」

「だが、あれが現れてから坑道は変わった。」

「人も。」

「獣も。」

「魔物までも。」

「迷える魂があの書へ引き寄せられ、魔力となって淀み続けておる。」

フィリアが小さく頷く。

「……本来なら、世界樹へ還るはずの魂です。」

老戦士は腕を組んだ。

「その魔力を浴び続けた魔獣は異常に育つ。」

「あの大ミミズも、その一匹だ。」

ターケシは静かに息を吐いた。

「つまり元凶は、あの本か。」

「少なくとも、この辺り一帯の異変のな。」

老戦士はうなずく。

「だからこそ、人間の手で回収してほしい。」

「そこは人間が造った礼拝堂。」

「儂らが兵を向ければ諍いの種、というより儂らはこの街を隠しておきたい。」

ターケシは地図を畳み、腰の剣へ手を添える。

「分かりました。」

「鎮魂の書を回収します。」

「そのために――」

ターケシは仲間を見回し、小さく笑う。

「まずは旧礼拝堂に巣くうジャイアントスパイダーを片付けよう。」

「全部終わらせて、地上へ帰る。」

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