勝利の宴
その夜。
地下都市の中央広場では、ジャイアントワーム討伐を祝う大宴会が開かれた。
巨大な炉には何本もの鉄串が並び、豪快な肉の塊が炙られている。
脂が炭火へ落ちるたび、
ジュウゥッ――
と香ばしい音が響き、食欲をそそる匂いが広場いっぱいに広がった。
「食え! 食え!」
「今日は英雄の宴だ!」
大ジョッキがぶつかり合い、鍛冶歌が響く。
シフォンの前には、蜂蜜酒の入った木杯が置かれた。
「甘い……!」
恐る恐る口をつけた彼女は、ぱっと耳を立てる。
「お、おいしいです!」
長老が豪快に笑う。
「子ども用だ!」
「安心して飲め!」
一方、ターケシ、ロザリア、フィリアの前には、琥珀色のエールが並ぶ。
ターケシは一口飲み、思わず目を見開いた。
「……うまい。」
「だろう!」
「熟成させた黒麦酒だ!」
「強いビールですからお気をつけて…」
地下世界に住む人間の男性が忠告してくれる。
厚さ三センチはあろうかという肉の塊が鉄板の上で焼かれている。
皿いっぱいに盛られた肉が運ばれてくる。
表面には粗挽きの黒胡椒と香草、岩塩が振られ、滴る脂が炎を上げる。ナイフを入れると、驚くほど柔らかく切れ、肉汁があふれ出した。
シフォンは我慢できず、鉄串に通された分厚い肉にかぶりつく。
「いただきます!」
がぶり。
「~~~~っ!」
尻尾がぶんぶんと揺れる。
「やわらかいです!」
「すっごくおいしい!」
隣ではロザリアも貴族らしさを保とうとステーキ状の厚切りにナイフを入れたものの、
その柔らかさに思わず笑みがこぼれる。
「これは……反則ですわ。」
「止まりません。」
フォークを運ぶ手が次第に速くなる。
フィリアも静かに口へ運ぶ。
無表情のまま、二切れ、三切れ。
やがて小さく頷いた。
「……おいしい。」
その一言だけだったが、それだけで十分だった。
ターケシは笑いながら仲間を眺める。
ふと視線を厨房へ向ける。
奥では数人のドワーフが、巨大な包丁で何かを解体していた。
その向こうに見えたのは――
土色の、異様に分厚い皮。
見覚えがある。
ターケシは数秒だけ見つめ、
静かに視線を戻した。
「どうしました?」
ロザリアが尋ねる。
ターケシは肉を一切れ口へ放り込み、肩をすくめた。
「いや。」
「知らない方が幸せなこともある。」
ロザリアは首をかしげる。
シフォンは気にも留めず、二本目の串肉へかぶりついていた。
老戦士はその様子を見て、口ひげの奥でにやりと笑う。
しかし、何も言わない。
ターケシもまた、それ以上は聞かなかった。
宴もたけなわ。
広場には笑い声が絶えない。
シフォンは甘い蜂蜜酒に頬を赤くしながら…完全なノンアルコールではなかったらしい…肉を頬張っている。
ロザリアも貴族らしく食べようとしていたが、とうに諦め、ドワーフたちに勧められるままナイフを動かしていた。
フィリアは静かに黒エールを味わっている。
長老が大ジョッキを片手にターケシの隣へ腰を下ろした。
「地上人。」
「はい。」
「お前たち、この街に残る気はないか。」
ターケシはジョッキを持つ手を止める。
長老は広場を見渡した。
「人間も何人か暮らしておる。」
「あれも、昔、地上で行き場を失った連中だ。」
厨房では人間の青年が重ねた食器を忙しなく運び、
人間の女性がパンを焼いている。
子どもたちは種族の違いなど気にせず走り回っていた。
「ここなら奴隷商人も来ん。」
「奴隷狩りも来ん。」
「お前たちほどの腕なら、職も家も用意する。」
「一生困らせはせん。」
ターケシは静かに街を見回した。
確かに、いい街だ。
戦いはあっても、皆が働き、笑い、食べ、眠る。
守る価値のある場所だった。
シフォンが小さく尋ねる。
「……ご主人様?」
ターケシは微笑み、長老へ向き直る。
「ありがたい話です。」
「本当に。」
「でも、帰ります。」
長老は何も言わない。
ターケシは静かに続ける。
「俺たちが帰らなければならない場所が、まだ地上にあります。」
「まだ苦しんでいる人たちがいます。」
「だから逃げられません。」
しばらく沈黙が流れる。
やがて長老は豪快に笑った。
「そう答えると思っとった!」
ジョッキを掲げる。
「ならば止めん!」
「守りたいものがある者は強い!」
「また来い!」
ターケシもジョッキを掲げた。
「はい。」
「その時は酒だけ飲みに来ます。」
長老は目を細めた。
「阿呆。今度は仕事も持ってこい。何でも作ってやる。」




