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地下世界

「みんな、無事か!」

「うひぃ…死ぬかと思いました…」 シフォンが呻く。

「なんとか…深い河でよかったですわ…」

「…怪我は…ありません…さすがに肝が冷えました」

ターケシは安堵する。さて… 


そこに広がっていたのは、街だった。

いや――地下に街がある、などという生易しいものではない。

山そのものが、一つの都市へと彫り上げられていた。

天井は遥か頭上。

闇に溶け込むほど高く、無数の鍾乳石の間には巨大な魔導灯が吊るされ、琥珀色の光が洞窟全体を昼のように照らしている。

切り立った岩壁には、幾重にも石造りの建物が張り付いていた。

自然の岩肌を削り、そのまま家や工房へと変えている。

窓から漏れる橙色の灯火は、夜空の星々のように岩壁を彩っていた。

谷底を流れるのは、赤茶けた川。

土が鉄を多量に含むことを物語る。

何本もの石橋がその上を渡り、人々が行き交う。

遠くでは巨大な水車が轟音を響かせ、その力で無数の鍛冶槌が規則正しく上下していた。

カン――

カン――

カン――

無数の槌音が重なり合い、不思議と耳障りではない。

それはこの街の鼓動だった。

広場へ視線を向ければ、一本の巨大な岩山

ただの岩山ではない。

ひとつの岩を削り出して造られた社。

無数の階段と回廊が絡み合い、柱の内部までもが部屋となっている。

その姿は、まるで山に宿る巨人の宮殿。

豪奢ではない。

黄金に飾られているわけでもない。

だが、何百年という時間でが生み出せる重厚さがそこにはあった。

ターケシは思わず息を呑む。

「……これを、人が造ったのか。」

隣でフィリアが静かに首を振る。

「人ではありません。」

「…ドワーフです。」

その一言だけで十分だった。

この都市は建築物ではない。

山と共に生き、山を削り、山そのものを街へ変えた種族だけが築ける世界だった。


カツ……ンンン……

乾いた音が響く。

ターケシたちへ向けて、見渡せば十数本の大型弩が一斉に照準を合わせていた。

岩陰や石橋の上から、武装したドワーフ兵たちが姿を現す。

「動くな!」

低く響く声。

「武器を捨てろ、地上人!」

ターケシは静かに盾を下ろし、小声で仲間へ告げる。

「剣は抜くな。」

「ここで戦えば、本当に敵になる。」

四人はゆっくりと両手を見える位置へ上げた。

ドワーフ兵たちの間を割って、一人の白髭の老戦士が歩み出る。

鋭い眼光でターケシたちを見つめ、崩れた天井を見上げてつぶやいた。

「…まさか、大ミミズが『封鎖坑道』を破ったというのか。」

「武器を浅瀬に置かれよ。地上の者よ。手向せなんだら、歓迎しよう。」


ターケシたちは前後を武装したドワーフに囲まれ、連行されながら街を見る。

鍛冶屋の店先。

酒場。

地下栽培の農園。

シフォンが驚く。

「……あれ?」

「人間ですよね?」

一人の女性、初老の頃だろう、髪に白いものが見える…が、笑って答える。

「ええ。三十年前に鉱山で落っこちてきたの。地上の人は久しぶりね。」

別の老人が笑う。

「ハッハッハ!俺は四十五年前だ。」

さらに若い男。

「俺は生まれも育ちもこの街さ。親父とお袋の子で、農園や水車の手入れをやっている。」

女性が語る。

「お嬢さんたち、警戒しなくていいわよ。難しい顔をしてるけど、ここのドワーフはみんないい人たちだわ。」

ターケシは言葉を失う。

老戦士が説明する。

「地上じゃ『行方不明』なんだろう。」

「そういう人間は昔からおる。」

「大半は死ぬ。」

「生き残った者だけがここへ来る。」

「そして……帰らぬ者も多い。」


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