犬面の戦士たち
ゴブリンの群れを退けてから、一行はさらに奥へ進んだ。
坑道はますます狭くなる。
ターケシは盾を少し傾けなければ壁に擦ってしまうほどだった。
足元には地下水が流れ、小さな水音が絶え間なく響いている。
その時だった。
シフォンの耳がぴくりと動く。
尻尾がすっと止まる。
彼女は静かに息を吸い込んだ。
「……います。」
ターケシは立ち止まる。
「何だ。」
「犬じゃありません。」
少し首を傾げる。
「でも……犬に似た臭いです。」
フィリアも松明の先へ目を凝らした。
「……いました。」
岩陰。
黄色い瞳が二つ。
いや、四つ。
さらに奥にも光る。
大きな犬…いや。人型の犬と言った方が近い。
ターケシは静かに盾を構えた。
「コボルドだ。」
松明の明かりが届いた瞬間、甲高い唸り声が響く。
「グルルルッ!」
三匹のコボルドが槍を構えて飛び出した。
ターケシは一歩前へ。
槍先が盾へ突き立つ。
乾いた音。
しかし、すぐに二匹目が横から回り込もうとする。
「シフォン!」
「はい!」
シフォンはターケシの後ろから蹴るようにして横へ飛び出す。
短剣が一閃。
槍を持つ前腕を切りつける。
コボルドは苦鳴を上げ、槍を取り落とした。
その隙をターケシが盾で押し返す。
「ロザリア!」
「はい!」
レイピアがターケシの肩越しを一直線に走る。
狭い坑道では大きく振れない。
だからこそ突きが生きる。
切っ先がコボルドの肩を貫いた。
「ギャウッ!」
残る一匹は素早く後ろへ跳ぶ。
フィリアは弓を引く。
狭い。
味方も近い。
無理には射たない。
代わりに静かに告げる。
「逃げます。」
ターケシは頷く。
「追うな。」
コボルドたちは仲間を引きずるようにして暗闇へ消えていった。
静寂が戻る。
シフォンは短剣を納めながら呟く。
「ゴブリンより……強いですね。」
ターケシは落ちていた槍を拾い上げる。
粗末な作りだが、柄は何度も握られた跡がある。
「強いというより。」
槍を見つめながら言う。
「狭い場所での戦いを知っている。」
フィリアも壁へ目を向けた。
「…洞窟で生きる獣です。」
「ここは、あちらの縄張りなのでしょう。」
ロザリアは槍の穂先を見つめる。
「それでも……。」
「やはり坑道を掘るような魔物には見えませんわ。」
ターケシは静かに頷いた。
「ああ。」
松明を掲げる。
その先には、なお暗い坑道が続いている。
「本当の答えは、もっと奥だ。」
四人は再び歩き始めた。
揺れる松明の火だけが、静かな廃鉱山を照らしていた。




