落盤と地下水
坑道を進む。
湿った空気が肌にまとわりついた。
天井は思ったより低い。
ターケシが松明を掲げると、煤けた岩肌が赤く照らし出される。
横穴は人が一人、ようやく通れるほど。
場所によっては盾を横向きにしなければ進めない。
足元には砕けた石。
ところどころ地下水が染み出し、小さな水たまりを作っていた。
ターケシは立ち止まる。
「思ったより狭いな。」
フィリアが壁へ手を添える。
「鉱脈を追って掘ったのでしょう。」
「真っ直ぐではありません。」
「必要なところだけ掘り進めています。」
シフォンも先に目を細める。
「二人並ぶのも難しいですね。」
松明の火が揺れるたび、壁の影もゆらゆらと揺れた。
坑道は静かだった。
静かすぎるほどに。
知っている情報をおさらいする。
「黒狼鉱山は二十年以上前に閉山した。」
「それから一度も人の手は入っていない。」
ターケシは地図へ目を落とす。
「坑道は一本道に近い」
「だから昔は新人の護衛訓練にも使われていた。」
ギルドマスターや他の冒険者によると。
「だが最近になって様子がおかしい。」
「落盤が増えた。」
「地下水が流れ込んで、水没した坑道もある。」
フィリアが静かに頷く。
「それ自体は珍しいことではありません。」
「その通りだ。」
ターケシは同意する。
「鉱山は放置すれば崩れる。」
「だから地図どおりに進めない場所があるのも不思議じゃない。」
目を通した報告書曰く。
「説明できないことが、少しだけ残る。」
仲間が歩く音、水の滴る音が響く。
「落盤を避けて迂回したはずなのに、気がつくと入口近くへ戻っていた。」
「奥から歌声を聞いた者がいる。」
「そして、一人だけ戻らなかった冒険者がいる。」
遺体も荷物も見つからなかったという。
「落盤。」
「地下水。」
「暗闇での錯覚。」
一つずつ指を折る。
「……どれもあり得る。」
ロザリアが頷く。
「そう思いますわ。」
少し間を置いて続けた。
「だが、それだけでは片づけられない気味の悪さがある。」




