お気に入りの服
シフォンが困ったように立ち尽くしていると、ロザリアが小さくため息をついた。
「まったく、仕方のない子ですわね。」
そう言いながらも、その声はどこか嬉しそうだった。
「こちらへいらっしゃい。」
シフォンはおずおずと近づく。
「まずは普段着ですわ。冒険にも街歩きにも使えるものがよろしいです。」
ロザリアは棚から淡い青のワンピースを取り出し、シフォンの胸元にそっと当てる。
「……うーん、悪くありませんわ。でも、こちらの方が……。」
今度は若草色。
「ほら、耳の色とも合いますし。」
「え、えっと……。」
シフォンは目を白黒させるばかりだ。
その様子を見て、フィリアがくすりと笑う。
「ロザリア、それでは選択肢が多すぎます。」
そう言うと、自分は生成り色の素朴な服を手に取った。
「シフォンは動き回ることが多いから、こちらの方が着やすそう。」
「確かに実用的ですけれど……。」
「それに。」
フィリアはシフォンの髪をそっと整えながら微笑む。
「この子は、飾らなくても十分かわいい。」
シフォンの耳がぴくりと動く。
「か、かわ……。」
顔が真っ赤になる。
ロザリアは思わず吹き出した。
「ほら、耳まで赤くなっていますわ。」
「も、もうっ!」
店中に三人の笑い声が響く。
ターケシは少し離れた場所から、その光景を眺めていた。
ロザリアは次から次へと服を持ってくる。
フィリアは一着ずつ着心地や動きやすさを確かめる。
そのたびにシフォンは、
「こ、これですか?」
「えっ、こっちも?」
「そんなにたくさん……。」
と、おろおろしている。
まるで姉が二人、妹を着せ替えて遊んでいるようだった。
店主も目を細める。
「仲の良いご姉妹ですねぇ。」
三人は一瞬顔を見合わせた。
ロザリアが少し照れくさそうに笑う。
「……ええ。そんなものですわ。」
フィリアも静かに頷く。
「家族、みたいなもの。」
シフォンは二人の顔を見て、小さく微笑んだ。
「……はい。」
その一言は、とても自然で、温かかった。
ロザリアが可愛らしいフリルの付いた服を勧める。
「これなんていかが? きっと似合いますわ!」
シフォンは慌てて首を振る。
「む、無理です! こんな素敵なの、私なんかが着たら……。」
フィリアは落ち着いた色合いの服を持ってくる。
「じゃあ、これは? 動きやすいし、森でも目立ちすぎない。」
シフォンは少し考える。
ターケシも口は挟まない。
店の中を何度も歩き回り、最後にシフォンの足が止まる。
そこにあったのは、
灰色を基調に、若葉を思わせる淡い緑の刺繍が裾と袖口に施された、素朴なワンピース。
「……これ。」
恐る恐る胸に当てる。
ロザリアはぱっと笑う。
「ええ! とても似合いますわ!」
フィリアも頷く。
「シフォンらしい。」
ターケシも笑って言う。
「いいじゃないか。」
店主が試着を勧めると、シフォンは初めて少し嬉しそうな顔になる
試着室から出てきたシフォン。
服が少女を変えた、というより。
ようやく服が、本来の彼女に追いついた。
「似合ってる。」
「ええ。」
「うん。」
派手ではない。
でも、よく見ると仕立ては丁寧で、布も上質。
灰色はシフォンの耳や髪の色に似合う。
シフォンも照れ笑いを浮かべるが、その笑顔には誇らしさが混じる。
若草色はきっと、故郷の森。
さわやかな春の森を思わせた。




