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選ぶ練習

夕暮れの街道を、四人はゆっくりと歩いていた。

西日に染まる石畳を、長い影が並んで伸びていく。

誰も口を開かない。

地下礼拝堂で見た光景も。

骸骨の群れも。

『鎮魂の書』という名も。

まるで約束でもしたかのように、誰一人その話をしなかった。

しばらく歩いてから、ターケシがぽつりと言う。

「……今回の依頼で、少し懐が温かくなった。」

三人が顔を上げる。

「今日は装備屋じゃない。」

ターケシは少し照れくさそうに笑った。

「服を買いに行こう。」

「服……ですか?」

シフォンが目を丸くする。

「ああ。お前たちにまともな服を買ってやる。」

ターケシは三人を見回した。

「今まで武器や食料ばかり気にして、お前たちの服には気が回らなかった。」

少し申し訳なさそうに頭を掻く。

「ごめんな。」

シフォンは慌てて首を振る。

「そ、そんな、ご主人様は何も悪くありません!」

ロザリアも意外そうな顔をした。

「謝られるとは思いませんでしたわ。」

フィリアは自分の袖口を見つめる。

旅と戦いを重ねた服は、ところどころ擦り切れ、糸がほつれていた。

ターケシは穏やかな声で続ける。

「武器は命を守る。」

「でも、服も人として生きるためには大事なものだ。」

「今日は好きなものを選べ。」

三人は顔を見合わせる。

やがてシフォンが、小さく笑った。

「……はい。」

その笑顔を見て、ロザリアも肩の力を抜き、フィリアもほんの少しだけ口元を緩める。

夕暮れの街に向かって、四人は再び歩き出した。

今度は、少しだけ足取りが軽くなっていた。


服屋へ入ると、色とりどりの布地が三人を迎えた。

壁には春物のワンピースや外套が並び、棚には靴や帽子、髪飾りまで置かれている。

「わぁ……。」

シフォンは思わず声を漏らした。

ロザリアは目を輝かせながら生地に触れる。

「この仕立て……王都らしいですわ。」

フェルネアも珍しそうに布を手に取り、その織り方を眺めている。

店主は笑顔で言った。

「好きなものを選んでくださいな。」

その一言で、シフォンの動きが止まった。

「……え?」

「ご主人様がそうおっしゃっていますよ。」

シフォンはターケシを振り返る。

「わ、私が……選ぶんですか?」

「ああ。」

「どれでも……ですか?」

「予算の範囲ならな。」

シフォンは店いっぱいに並ぶ服を見回した。

けれど、一歩も動けない。

手を伸ばしかけては引っ込める。

また別の服を見ては目を逸らす。

ターケシはその様子を不思議そうに見ていた。

「シフォン?」

小さく震える声が返ってきた。

「……わかりません。」

「何が?」

「どれを選んだらいいのか……わからないんです。」

店内が静まり返る。

シフォンは俯いたまま、小さく続けた。

「子どものころは、お母さんが選んでくれました。」

「奴隷になってからは……服は支給されるものでした。」

「だから……。」

言葉が途切れる。

「自分で選んだことが、一度もありません。」

ターケシは、その言葉の重さを噛みしめた。

武器の持ち方は教えられる。

戦い方も教えられる。

だが、「好きな服を選ぶ」という、ごく当たり前のことを、この少女は奪われていた。

ターケシはシフォンの隣に立ち、穏やかに言う。

「じゃあ今日は練習だ。」

「練習……ですか?」

「ああ。戦いの練習と同じだ。」

ターケシは一着の淡い灰色のワンピースを手に取る。

「似合うと思う。でも決めるのは俺じゃない。」

次に、深い青の服を指さす。

「これもいい。」

最後に微笑んだ。

「お前が『着てみたい』と思ったものを選べ。」

シフォンは服とターケシの顔を何度も見比べる。

やがて、おそるおそる一着の服へ手を伸ばした。

まるで宝物に触れるように。

その指先は、少しだけ震えていた。

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