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退路を確保せよ

カタカタカタカタ―――キシキシキシキシ

骨が擦れ合う不快な音が地下室に響く。

青白い光を宿した眼窩。

数十体のスケルトン。

それらが一斉にこちらへ向かってくる。

シフォンの顔が青ざめる。

ロザリアは息を呑み。

フィリアも矢を構えたまま硬直していた。

その時だった。

「落ち着け」

ターケシの低い声。

不思議とそれだけで三人の視線が集まる。

ターケシは死霊術の本をシフォンへ押し付けた。

「持っとけ」

「え?」

「絶対に離すな」

シフォンは慌てて本を抱きしめる。

ターケシは既に戦場を見ていた。

地下室。

階段。

通路幅。

敵の数。

味方の位置。

一瞬で全てを確認する。

「階段まで下がれ」

三人が動く。

「ご主人様!」

「急げ」

ターケシは前へ出る。

階段の手前。

人ひとりがやっと通れる場所。

そこへ立つ。

「ここなら一斉には来られん」

木盾を構える。

「俺が壁になる」

その言葉に迷いはない。

スケルトンの群れが迫る。

ターケシは振り返らず指示を飛ばした。

「フィリア!」

「はい!」

「頭を狙え!」

エルフの耳がぴくりと動く。

ターケシは先頭のスケルトンを見る。

眼窩の奥。

緑色の光。

「あれが核だ!」

「眼窩から見える緑の光を射抜け!」

フィリアは即座に理解した。

「承知しました!」

矢を番える。

「ロザリア!」

「はい!」

元令嬢が返事をする。

ターケシは盾を構えたまま叫ぶ。

「水魔法を溜めろ!」

「全部ですか!?」

「全部だ!」

ロザリアの目が見開かれる。

「奴らを押し流す!」

「わかりました!」

彼女はレイピアを握り締める。

水の魔力が集まり始める。

空気が湿る。

だが大規模魔法には時間が必要だ。

ターケシはそれを稼ぐ。

「溜まったら合図しろ!」

「はい!」

そして。

最後に。

ターケシは背後の少女へ声を掛けた。

「シフォン」

小さな獣人の少女が顔を上げる。

死霊術の本を胸に抱いている。

「は、はい」

ターケシは短く言った。

「俺の背中につけ」

シフォンが頷く。

「その本を離すな」

「はい」

「やつらはこれを取り返しに来る」

その瞬間。

先頭のスケルトンがターケシへ飛びかかった。

ガァン!!

木盾が骨の腕を弾き飛ばす。

骨片が飛び散る。

ターケシは一歩も退かない。

「取られるなよ」

シフォンは本を抱き締める。

震えていた手が止まる。

「……はい!」

今度の返事は力強かった。

ターケシは笑う。

「よし」

そして。

迫り来るスケルトンの群れを見据える。

盾を前へ。

腰を落とす。左半身。

まるで銃剣道の構え。いや、そのもの。

狭い通路。

数の優位は消えた。

「来い」

先頭のスケルトンが襲い掛かる。

ターケシは盾を叩きつけた。

骨が砕ける音が地下室に響く。

その後ろでは、

フィリアの矢が緑の光を射抜き、

ロザリアの魔力が渦を巻き、

シフォンが必死に死霊術の本を抱き締めていた。

四人はまだ知らない。

この後に何が待つのか。

今この瞬間はただ、

仲間を守るために盾となる。剣となる。

それだけだった。

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