地下にあるもの
地下への扉は礼拝堂の奥にあった。
祭壇の裏。
崩れた棚の陰。
まるで意図的に隠されたような場所だった。
「ここですね」
フィリアが呟く。
ターケシは頷いた。
日誌の最後に残されていた言葉。
『地下へ』
その意味を確かめるため。
四人は地下へ降りる。
石造りの階段。
冷たい空気。
湿った匂い。
足音だけが響く。
やがて最下段へ辿り着く。
ターケシは松明を掲げた。
炎が揺れる。
そして。
その光が地下室を照らした瞬間。
「っ……!」
ロザリアが息を呑む。
シフォンの耳が伏せられる。
フィリアも言葉を失った。
そこには。
大量の白骨が転がっていた。
壁際。
床。
部屋の隅。
折り重なるように。
何十。
いや。
百近いかもしれない。
人骨だった。
誰もすぐには動けなかった。
地下室そのものが墓場になっていた。
「そんな……」
シフォンが顔を青くする。
「みんな……」
ターケシも最初はそう思った。
孤児院。
失踪した子供たち。
地下へ逃げるという記録。
大量の人骨。
話が繋がって見えた。
だが。
「待て」
ターケシは眉をひそめた。
「おかしい」
ロザリアが振り返る。
「何がおかしいんですの?」
ターケシは周囲を見回した。
「多すぎる」
静寂。
「多すぎる?」
シフォンが聞き返す。
ターケシはゆっくり頷いた。
「孤児院の規模に対してだ」
松明を掲げる。
「神父が一人」
「シスターが数人」
「孤児が二十人か三十人」
「そんなところだろう」
フィリアも頷く。
「ええ」
ターケシは骨の山を見つめた。
「だがこれは違う」
「少なく見積もっても数十人」
「いや」
「百人近い」
その言葉に。
地下室の空気がさらに冷たくなった気がした。
フィリアがしゃがみ込む。
骨を観察する。
ひとつ。
ふたつ。
みっつ。
やがて静かに言った。
「成人が多いですね」
「やっぱりか」
ターケシは腕を組む。
「孤児院だけで説明できない」
フィリアはさらに周囲を調べる。
「年代も違います」
「年代?」
「死後の経過です」
彼女は骨を指差した。
「比較的新しいもの」
「かなり古いもの」
「混ざっています」
ロザリアが息を呑む。
「つまり……」
フィリアは顔を上げた。
「一度に死んだわけではありません」
「長い時間をかけて集まっています」
その言葉に。
ターケシの背筋を冷たいものが走る。
集まっている。
いや。
集められている。
「フィリア」
「はい」
「自然にこうなると思うか?」
エルフの少女は即座に首を振った。
「いいえ」
そして。
珍しく声に感情を滲ませた。
「誰かが集めています」
沈黙。
誰も喋らない。
ターケシはゆっくり骨の山を見渡した。
孤児院の地下。
大量の人骨。
何十年にも渡る堆積。
これは避難所ではない。
墓場でもない。
「保管場所だ」
思わず口から漏れた。
その瞬間。
シフォンの顔色が変わる。
「じゃあ……」
小さな声。
「子供たちは?」
ターケシは答えられなかった。
だが。
一つだけ分かる。
ここに子供の骨はほとんどない。
それは希望ではない。
むしろ。
もっと恐ろしい可能性を示している。
ロザリアが震える声で言う。
「連れて行かれた……?」
誰も否定できなかった。
日誌には、
『また一人』
『また一人』
と書かれていた。
だが地下にはその数に見合う子供の骨がない。
ならば。
孤児たちは死んでいない。
少なくとも。
ここでは。




