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孤児院の2階

二階へ続く階段は半ば崩れていた。

ターケシが先に上がり、安全を確認する。

「大丈夫だ。気を付けて来い」

三人が続く。

床は軋み。

風が吹くたびに建物全体が小さく震えた。

まるで今にも崩れそうだった。

二階にはいくつかの部屋があった。

職員室。

物置。

そしてシスターたちの居室と思われる小さな部屋。

家具はほとんど朽ちている。

机の脚は折れ。

椅子は崩れ。

窓から吹き込んだ雨で床板も傷んでいた。

「何か残っていませんかしら」

ロザリアが机を調べる。

引き出しは固まっていた。

ターケシが力を込める。

バキッ。

腐った木材が割れた。

中には紙束。

しかしほとんどが虫に食われている。

「待ってください」

フィリアが一冊の本を拾い上げた。

煤と埃にまみれた革表紙。

金具は錆び。

ページは波打っている。

それでも形だけは残っていた。

「日誌でしょうか」

ターケシは受け取った。

表紙を払う。

薄く文字が浮かぶ。

『孤児院記録』

誰も言葉を発しなかった。

ターケシは慎重にページを開く。

紙は指先だけで破れそうだった。

読める部分は多くない。

だが。

ところどころ文章が残っている。

『春を迎えた。新しく三人の子供を受け入れる』

『皆元気である』

『女神の加護に感謝する』

普通の日誌だった。

少なくとも最初は。

さらにページをめくる。

途中から筆跡が変わる。

急いで書いたような文字。

『ミリアがいなくなった』

その一文で空気が変わった。

『朝になっても戻らない』

『森へ入ったのかもしれない』

『神父様が捜索隊を出してくださった』

次のページ。

さらに破れている。

『見つからない』

『まだ十歳なのに』

シフォンが息を呑んだ。

ページをめくる。

『今月に入って二人目』

『偶然とは思えない』

さらに次。

『町へ相談した』

『だが聞き入れてもらえなかった』

『孤児が一人いなくなっただけ』

そこだけ妙にはっきり読めた。

ロザリアの表情が険しくなる。

「なんですの、それは」

返事をする者はいない。

ターケシは続きを読む。

『夜になると子供たちが怯える』

『窓の外に誰かいると言う』

『ただの悪戯なら良いのだが』

『最近は神父様も眠れていない』

その先は焼け焦げていた。

フィリアが別のページを慎重に開く。

後半になるにつれ文章は短くなっていた。

余裕がなくなっているのが分かる。

『また一人』

『森ではない』

『野犬でもない』

まるで悲鳴だった。

シフォンの手が震える。

「子供たち……」

ターケシは黙って次を開く。

『領主へ手紙を送った』

『返事はない』

『神父様は王都へ向かわれる』

『お願いだから無事で帰ってきてください』

そこから数ページが破り取られていた。

「誰かが持ち去ったのか」

ターケシが呟く。

フィリアも頷く。

「その可能性があります」

最後の方。

ほとんど読めなくなったページ。

焼け跡で黒くなっている。

しかし一箇所だけ文字が残っていた。

『地下へ逃げます』

その一文だけ。

誰も動かなかった。

風が吹く。

ロザリアがゆっくり顔を上げる。

「地下?」

ターケシは日誌を閉じた。

胸の奥に嫌な予感が広がる。

孤児の失踪。

助けを求めるシスターたち。

帰ってこなかった神父。

万策尽きた者たちは何かから逃れるように地下へ向かった。

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