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廃れた教会と孤児院

王都から半日ほど離れた森の外れ。

かつて街道として使われていたのであろう石畳は雑草に覆われ、ところどころ崩れ落ちている。

その先に、それはあった。

「……あれですか」

ロザリアが小さく呟く。

森の木々の隙間から見える灰色の建物。

屋根の一部は崩れ落ち、尖塔は途中から折れている。

蔦が壁を這い、まるで森に呑み込まれようとしているようだった。

廃教会。

依頼書に書かれていた場所だ。

ターケシはしばらく無言で建物を眺めた。

風が吹く。

朽ちた鐘楼が軋み、ギィ……と不気味な音を立てた。

「なんだか……嫌な感じがします」

シフォンが耳を伏せる。

灰色の狼耳が小刻みに震えていた。

獣人特有の鋭い感覚が何かを感じ取っているのだろう。

ターケシは頷いた。

「俺もだ」

魔物の気配というより。

もっと別の何か。

人が長く近寄らなかった場所特有の重苦しさ。

そんなものを感じる。

教会の前庭へ足を踏み入れる。

かつて花壇だったのであろう場所は雑草に埋もれていた。

中央には石像。

女神像だろうか。

しかし首から上が砕け落ちている。

誰かが壊したのか。

それとも年月のせいか。

分からない。

「……信仰を失った場所ですわね」

ロザリアが静かに言う。

元貴族らしい観察眼だった。

「信仰を失った?」

「教会が廃墟になることはありますわ。ですが普通は神官が片付けます。祭具も回収します。こんな風に放置されることは滅多にありません」

なるほど。

言われてみればおかしい。

まるで、

誰もこの場所に触れたくなかったかのようだ。

教会の裏手へ回る。

そこでターケシは足を止めた。

「……孤児院か」

教会に隣接するように建てられた二階建ての石造りの建物。

窓ガラスは割れ。

扉は半ば外れている。

風が吹くたびに揺れ、カタカタと音を立てていた。

フィリアが目を細める。

「教会運営の孤児院ですね」

「そうなのか?」

「ええ。エルフの国でもあります。親を失った子供たちを預かる施設です」

ターケシは建物を見上げた。

崩れかけた壁。

割れた窓。

朽ちた看板。

誰もいない。

何年も。

何十年も。

そこには子供たちの笑い声だけが綺麗に消えていた。

シフォンが建物の前で立ち止まる。

「……ここ」

「どうした?」

「わかりません」

少女は首を振った。

だが耳はぴたりと建物へ向いている。

「なんだか……悲しい匂いがします」

ターケシは思わず黙った。

悲しい匂い。

獣人らしい表現だった。

だが妙に納得してしまう。

ここには何かがあった。

良くない何かが。

そしてそれは、

まだ終わっていない。

そんな気がした。

フィリアが地面にしゃがみ込む。

土を指先でなぞった。

「足跡はありません」

「最近は誰も来てないか」

「ええ」

そこでエルフの少女は少し眉をひそめた。

「ですが、不自然です」

「何が?」

「人間は忘れます。でも痕跡は残ります」

彼女は孤児院を見上げる。

「ここは忘れられすぎています」

風が吹く。

孤児院二階の窓が音を立てた。

カタン。

誰もいないはずなのに。

まるで誰かが覗いているようだった。

シフォンがターケシの服の裾を掴む。

「ご主人様……」

「ああ」

ターケシは頷いた。

腰の剣に手を置く。

冒険者としての勘が告げている。

この場所は危険だ。

単に魔物がいるからではない。

もっと別の理由で。

「今日は外だけ確認する」

ターケシは三人を見回した。

「中に入るのは明るいうちだ。まず周囲を調べる」

「はい!」

「承知しましたわ」

「賢明ですね」

三人が頷く。

ターケシは再び教会を見上げた。

折れた尖塔。

首のない女神像。

朽ちた孤児院。

そして森を渡る冷たい風。

まるでこの場所そのものが、

「真実を見る覚悟はあるか」

そう問いかけているようだった。

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