真昼の亡霊
冒険者ギルド
昼下がり。
王都の冒険者ギルドは今日も騒がしかった。
酒を飲む者。
依頼書を眺める者。
討伐から戻ったばかりの冒険者。
そんな喧騒の中、ターケシたちは掲示板の前に立っていた。
シフォンが背伸びをする。
「ご主人様、これなんてどうでしょう?」
指差した先には一枚の羊皮紙。
ターケシは声に出して読む。
調査依頼
王都南方の森にある旧ラルグ教会にて、夜間に不審な光が目撃されている。
周辺住民より「幽霊ではないか」との通報多数。
原因不明。
調査および報告を求む。
報酬 銀貨八枚。
「幽霊ですって?」
ロザリアが露骨に嫌そうな顔をした。
「わたくし、そういうのはあまり好きではありませんわ」
「好きな人はいないと思うぞ」
ターケシは苦笑した。
フィリアは依頼書を眺めている。
「夜だけ光る、ですか」
「そうらしいな」
その時。
受付嬢がこちらに気づいた。
「あ、その依頼ですか?」
ターケシは頷く。
「何か情報はあるか?」
受付嬢は少し困った顔になった。
「正直なところ、ほとんどありません」
「ありません?」
「目撃情報だけなんです」
話を聞くと。
森の近くに住む農民たちが数日前から目撃しているらしい。
真夜中になると。
廃教会の二階から紫色の光が漏れる。
近づいた者はいない。
気味が悪いので冒険者ギルドへ依頼が来た。
それだけだった。
「討伐依頼じゃないんだな」
ターケシが言う。
受付嬢は頷いた。
「ええ。何も見つからなければ、それでも報告になります」
「なるほど」
ターケシは少し考えた。
普通の冒険者なら。
夜になるのを待って現地へ向かうだろう。
だが。
それは危険だ。
相手の正体もわからない。
地形もわからない。
逃走経路もわからない。
「受けよう」
ターケシは依頼書を外した。
「ただし、今から行く」
「今から?」
シフォンが首を傾げる。
「夜じゃないんですか?」
ターケシは頷いた。
「まず昼間に下見だ」
「下見?」
「夜に行く前に周辺を見ておく」
ロザリアが感心したように頷く。
「確かにその方が安全ですわね」
「建物の構造も確認できます」
フィリアも賛成した。
ターケシは指を折りながら説明した。
「昼間なら」
「地形が見える」
「逃げ道がわかる」
「隠れ場所もわかる」
「魔物の巣なら痕跡も見つかる」
「何も無ければ夜にもう一回来ればいい」
受付嬢が苦笑する。
「ずいぶん慎重なんですね」
「死にたくないからな」
ターケシは即答した。
ロザリアが吹き出した。
シフォンも少し笑う。
フィリアだけが真面目な顔で頷いた。
「正しい判断です」
ターケシは肩を竦めた。
「わからないものが一番危険なんだ」
「だからまず見る」
「正体を確かめる」
「怖いからって目を背けると、後で痛い目を見る」
その言葉に。
フィリアがわずかに視線を伏せた。
何か思うところがあったのかもしれない。
だが誰も気づかなかった。
こうして四人はギルドを出た。
目的地は王都南方の森。
夜毎に紫色の光が現れるという。
旧ラルグ教会。
そしてターケシたちはまだ知らない。
その廃教会の二階で待っているものが、ただの幽霊騒ぎではなく、後に王国全体を揺るがす死霊術事件の最初の痕跡であることを。




