薬草採取その2
翌日。
新しい武器を手にした四人は、再び冒険者ギルドを訪れていた。
ターケシは依頼掲示板の前で腕を組む。
「次はどうしますの?」
ロザリアが尋ねる。
ターケシは依頼書を何枚か見比べた。
Cランク依頼もある。
護衛。
魔物討伐。
輸送。
だが。
ターケシは首を振った。
「まだ早いな」
また薬草採取にしよう。
そして一枚の依頼書を剥がす。
『薬草採取および周辺ゴブリン討伐』
ギルドマスターが説明する。
「今回は銀葉草と赤根草だ」
「月涙草じゃないのか」
「別の薬草だ」
ギルドマスターが地図を指差す。
「森の北側」
「少し乾いた場所に生える」
「ついでにゴブリンも減らしてこい」
ターケシは頷く。
「了解」
森へ向かう途中。
シフォンが尋ねる。
「銀葉草って何ですか?」
ターケシは説明する。
「傷薬の材料だ」
「月涙草より少し高い」
「へえ」
シフォンの耳が動く。
「食べられますか?」
「食べれるけど食べるな」
昨日の戦闘跡へ近付いた時だった。
シフォンが小さく息を吸い込む。
「血の匂いがします」
ターケシも頷く。
「昨日の場所だな」
四人は慎重に進む。
やがて木々の向こうに戦闘跡が見えてきた。
そして。
ロザリアが顔をしかめた。
「……なんですの、これ」
昨日倒したゴブリンたち。
その死体があった。
いや。
正確には死体だったものがあった。
肉の大半がなくなっている。
骨が露出している。
まだ一日も経っていないのに異様な光景だった。
シフォンがターケシの後ろへ寄る。
少し怖いらしい。
その時。
ぐちゅ。
肉片が動いた。
半透明の青白い塊が這い出してくる。
拳ほどの大きさ。
そして一匹ではない。
十匹以上。
死体に群がっている。
ロザリアがレイピアに手をかけた。
「魔物ですわ!」
ターケシは手を上げる。
「待て」
ロザリアが驚く。
「倒さなくてよろしいのですか?」
ターケシは首を振った。
「死肉スライムだ」
フィリアが興味深そうに観察する。
「ご存知なんですか?」
「ああ」
ターケシは頷く。
「この辺の森なら珍しくない」
十年前。
異世界に来たばかりの頃。
冒険者の先輩に教わったことを思い出す。
『死肉スライムを見つけても慌てるな』
『あいつらは死体を片付ける』
『森の掃除屋だ』
そんな言葉だった。
ターケシは三人へ説明する。
「生きた獲物はほとんど襲わない」
「死体や腐肉を食べる」
「だから放っておけばいい」
シフォンが安心したように息を吐く。
「よかった……」
「なんだ」
「ちょっと気持ち悪いので」
ターケシは笑った。
確かに見た目は気持ち悪い。
ぐちゅぐちゅと音を立てながらゴブリンの肉を溶かしている。
食事風景としては最悪だった。
ロザリアも少し青い顔をしている。
「昼食前に見るものではありませんわね」
「違いない」
フィリアだけは真面目に観察していた。
「自然とは面白いものですね」
ターケシは頷く。
「全部の魔物を倒せばいいわけじゃない」
三人がターケシを見る。
「害獣もいる」
「危険な魔物もいる」
「だがこういう奴らもいる」
死肉スライムたちはこちらを気にも留めず食事を続けている。
ターケシは続けた。
「冒険者は戦うだけじゃない」
「何を倒して」
「何を放っておくか」
「それを見極めるのも仕事だ」
三人は静かに聞いていた。
ゴブリンを容赦なく斬り捨てた男。
熊にも立ち向かった男。
そのターケシが、
目の前の魔物を見逃している。
それは三人にとって少し意外だった。
ターケシは肩をすくめる。
「まあ」
「もし宿の台所にいたら叩き潰すがな」
「それはそうですわね」
ロザリアが即答した。
フィリアが吹き出す。
シフォンも笑う。
死肉スライムたちはそんなことも知らず、
黙々と森の掃除を続けていた。
そしてターケシは内心で思う。
(昨日は見えなかったものが見えるようになってきたな)
森も。
魔物も。
そして三人のことも。
少しずつ理解できるようになってきたのかもしれない。
森の北側へ入る。
昨日の群生地とは違う。
地面は乾いている。
日当たりもいい。
やがてフィリアが足を止める。
「ありました」
そこに生えていたのは、
銀色の産毛に覆われた葉を持つ薬草だった。
風に揺れるたび、
まるで銀貨を撒いたように光る。
シフォンが目を丸くする。
「きれい……」
ターケシも頷く。
「だから銀葉草だ」
今度は森のさらに奥。
湿地に近い場所。
そこで採取するのが赤根草。
地上から見える葉は平凡。
しかし掘り返すと、
血のように赤い根が現れる。
シフォンが驚く。
「うわっ!」
ロザリアも少し引く。
「なんだか不吉ですわね」
ターケシは笑う。
「薬草なんてそんなもんだ」




