危険手当
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夕方。
西日に染まる街道を、四人は王都へ向かって歩いていた。
籠の中には月涙草。
依頼達成には十分な量だ。
ターケシの腕には応急処置の跡。
そして荷物の中には、熊と揉み合った際に剣や服に絡みついた黒い毛が一束。
なかなか濃い初依頼になった。
冒険者ギルドの扉を開く。
がやがやとした喧騒。
昼間とは違い、多くの冒険者が酒を飲み始めている。
ターケシはまっすぐ受付へ向かった。
「依頼達成だ」
受付嬢が籠を見る。
「月涙草ですね」
数を数える。
十分。
いや、少し多いくらいだった。
「確認しました」
ターケシは頷く。
「それと報告がある」
受付嬢が顔を上げる。
「報告ですか?」
ターケシは籠の横に黒い毛を置く。
「森で熊と遭遇した」
受付嬢の動きが止まった。
「……はい?」
ターケシは火傷した腕を見せる。
「これ」
さらに毛を指差す。
「たぶん熊」
たぶんではない。
どう見ても熊だった。
受付嬢の顔色が変わる。
「少々お待ちください!」
奥へ走っていく。
ターケシは首を傾げた。
「そんなに珍しいのか」
ロザリアが呆れた顔をする。
「普通は薬草採取で熊とは戦いませんわ」
「そうなのか」
「そうですわ」
シフォンも何度も頷いている。
やがて奥からギルドマスターが出てきた。
「おい」
開口一番だった。
「何をやらかした」
ターケシは正直に答える。
「薬草を採った」
「その腕は」
「熊」
「その毛は」
「熊」
「その嬢ちゃんたちは」
「無事だ」
ギルドマスターは額を押さえた。
周囲の冒険者たちも興味津々で集まってきている。
「詳しく話せ」
ターケシは順番に説明した。
月涙草の群生地。
シフォンの警戒。
熊の突進。
ロザリアの魔法。
フィリアの援護。
そして撃退。
話が進むにつれて、周囲が静かになっていく。
特に。
「シフォンが先に気付いた」
「ロザリアが火球を撃った」
「フィリアが熊の目を射た」
この辺りから冒険者たちの視線が変わった。
最初は奴隷を連れた変人を見る目だった。
今は違う。
戦力として見始めている。
話を聞き終えたギルドマスターがため息を吐く。
「なるほどな」
そしてシフォンを見る。
「お前が見つけたのか」
シフォンは少し緊張しながら頷く。
「はい」
「よくやった」
耳がぴんと立つ。
次にロザリア。
「火魔法か」
「少々ですわ」
「少々じゃねえな」
ロザリアが少し照れる。
最後にフィリア。
「森の民か」
「ご想像にお任せします」
ギルドマスターは苦笑した。
そしてターケシを見る。
「お前は」
「なんだ」
「薬草採取に行ったんだよな?」
「そうだ」
「熊を狩りに行ったわけじゃないな?」
「もちろんだ」
ギルドマスターは深く息を吐いた。
「ならまあいい」
帳簿を引き寄せる。
羽ペンを走らせる。
「月涙草採取達成」
さらさらと書く。
さらに。
「大型獣遭遇報告」
もう一行。
ターケシの目が少し輝く。
「追加報酬か?」
「出る」
「おお」
「ただし熊討伐じゃない」
「逃げたからな」
「逃げたからな」
妙に息が合った。
やがて受付嬢が小袋を持ってくる。
依頼報酬。
そして遭遇報告の追加分。
ターケシは中身を確認した。
「増えてるな」
「増えてますわね」
ロザリアも覗き込む。
シフォンも目を丸くする。
ターケシは頷いた。
「よし」
「何がですの?」
「今日は肉だ」
一瞬の沈黙。
そして。
シフォンの尻尾が猛烈に振られた。
ロザリアが吹き出す。
フィリアも笑う。
ギルドマスターはそんな四人を眺めながら思う。
朝は寄せ集めにしか見えなかったが、今は少し違う。
まだ未熟。
まだ危うい。
それでも確かに。
パーティーの形になり始めていた。




