薬草採取完了
https://51577.mitemin.net/i1189101/
熊が去った森の中。
まだ焦げた毛皮の匂いが風に乗って漂っている。
ロザリアの水魔法で冷やされた腕を確かめながら、ターケシは立ち上がった。
「よし」
シフォンが心配そうに見上げる。
「ご主人様、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
実際には少し痛い。
だが動ける。
なら問題ない。
ターケシは地面に散らばった薬草籠を拾い上げた。
「月涙草の採取を急ごう」
三人が顔を上げる。
ターケシは森の奥を見る。
「熊が帰ってこないとも限らないからな」
その言葉に全員が真面目な顔になる。
先ほどの熊を思い出したのだろう。
ロザリアが頷いた。
「確かに、あのまま縄張りへ逃げただけかもしれませんわね」
「そういうことだ」
ターケシは続ける。
「それに」
少しだけ口元を緩めた。
「熊と遭遇した報告をギルドにすれば、報酬にも色がつくだろう」
一瞬。
三人がぽかんとした顔になる。
そして。
フィリアが吹き出した。
「そこで報酬の話になるんですか」
「大事だぞ」
ターケシは真顔だった。
「危険手当は請求するものだ」
ロザリアも思わず笑う。
「確かに正論ですけれど」
「正論だろう」
「正論ですわ」
シフォンもつられて笑っている。
さっきまで死にかけていたとは思えない空気だった。
ターケシは籠を持ち上げる。
「冒険者は依頼を達成して報酬を受け取るのが仕事だ」
「命懸けだったんだ」
「銀貨数枚で終わらせてたまるか」
ロザリアが肩を震わせる。
「妙なところで現実的ですわね」
「現実は大事だ」
ターケシは断言した。
「報酬が増えれば宿代になる」
「飯が食える」
「装備も買える」
そこでふとロザリアを見る。
「剣も買える」
ロザリアが少しだけ目を見開く。
ターケシ自身は深い意味で言ったわけではない。
だがロザリアは何も言わなかった。
ただ小さく頷く。
ターケシは気付かない。
しかしフィリアはその横顔を見ていた。
かつて騎士を目指していた少女。
今は丸腰の奴隷。
その彼女にとって、
「剣も買える」
という言葉は思った以上に重かった。
「よし」
ターケシが手を叩く。
「シフォン、警戒を続けてくれ」
「はい!」
「フィリアは周囲を見ていてくれ」
「分かりました」
「ロザリアは採取に専念だ」
「わたくしだけ雑用扱いですの?」
「一番器用そうだからな」
ロザリアは少し考えたあと、
「まあ、事実ですわね」
と胸を張った。
四人は再び月涙草の群生地へ散る。
春の風が吹く。
誰もまだ知らない。
この籠いっぱいの月涙草が。
何年も後に、獣人と人間とエルフの闇に関わることに。
今はただ。
初めての依頼を終わらせるために、
四人で黙々と薬草を摘み続けるのだった。




