クマとの別れ
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熊の突進を受け止めたまま、ターケシは歯を食いしばった。
重い。
とにかく重い。
剣は胸に刺さっている。
だが致命傷には程遠い。
熊は苦しみながらもなお前へ出ようとしていた。
爪が振り上げられる。
一撃食らえば終わりだ。
ターケシは叫んだ。
「みんな、距離を取れ!」
ロザリアが目を見開く。
「ですが!」
「いいから下がれ!」
シフォンもフィリアも後退する。
ターケシは熊と組み合ったまま叫んだ。
「ロザリア!」
「はい!」
「俺を巻き込んでも構わん!」
「なっ!?」
ロザリアの顔色が変わる。
ターケシは続ける。
「火傷したら後で冷やしてくれ!」
「そんな無茶苦茶な!」
「いいから撃て!」
熊が吠える。
もはや猶予はない。
ターケシは剣をさらに押し込み、熊の注意を自分へ向け続ける。
ロザリアは唇を噛んだ。
迷う。
だが。
ターケシの背中は動かない。
信じているのだ。
自分の魔法を。
ロザリア自身よりも。
「……もう!」
右手を掲げる。
魔力が集まる。
炎が生まれる。
先ほどのゴブリン戦とは比べ物にならないほど大きな火球だった。
「火よ!」
火球が飛ぶ。
一直線。
ターケシも熊もまとめて呑み込む軌道。
シフォンが息を呑む。
フィリアも目を見開く。
次の瞬間。
轟音。
火球が炸裂した。
炎が爆発する。
熊が絶叫する。
ターケシも思わず声を上げた。
「熱っ!?」
当然だった。
本当に巻き込まれている。
熊の毛皮が燃える。
顔が焼ける。
目を守ろうとして暴れる。
その隙だった。
「今です!」
フィリアが放つ。
枝の矢。
ひゅっ――
燃える熊の右目へ突き刺さる。
熊が悲鳴を上げる。
視界を失う。
さらに。
「ええええいっ!」
シフォンが飛び出した。
ターケシの指示では離れるだけだった。
だが放っておけなかったらしい。
持っていた太い枝を全力で振り下ろす。
ごんっ!
熊の鼻先に直撃。
効いたかどうかは怪しい。
だが。
熊は完全に混乱した。
炎。
痛み。
失明。
そして予想外の攻撃。
野生動物らしく危険を察したのだろう。
熊は大きく後退する。
ターケシはその瞬間を逃さない。
「うおおっ!」
渾身の力で剣を押し込む。
さらに踏み込む。
熊がよろめく。
そして。
向きを変えた。
森の奥へ。
逃げる。
木々をなぎ倒しながら。
あっという間に姿が消えた。
静寂。
誰も動かない。
やがて。
ターケシが地面に腰を下ろした。
「……熱い」
服の前側が少し焦げている。
腕も赤くなっている。
ロザリアが真っ青な顔で駆け寄った。
「だ、大丈夫ですの!?」
「たぶん」
「たぶんではありませんわ!」
「冷やしてくれるんだろ?」
ロザリアは思わず言葉に詰まる。
確かに言われた。
火傷したら冷やしてくれ、と。
ターケシは苦笑した。
「頼む」
ロザリアは呆れたような顔をしながらも、水魔法を準備する。
その横でシフォンが涙目になっていた。
「ご、ご主人様……」
「なんだ」
「死ぬかと思いました……」
ターケシは少し考える。
そして正直に答えた。
「俺もだ」
シフォンがぽかんとする。
フィリアが吹き出した。
ロザリアもとうとう笑ってしまう。
森の中に笑い声が広がる。
薬草採取の依頼。
そのはずだった。
だが四人は今、確かに一つの危機を乗り越えていた。
そしてターケシは内心で確信する。
ロザリアは勇気がある。
フィリアは冷静だ。
シフォンはまだ未熟だが、仲間を見捨てない。
――悪くない。
この三人なら、本当にCランク依頼を目指せるかもしれない。
そんな予感が、少しだけ芽生え始めていた。




