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奴隷市場から始まる異世界冒険譚―第一部王都編  作者: たーけし
冒険者ギルドと最初の依頼

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やっぱりクマさんに出会う

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薬草採取は順調だった。

籠の中もだいぶ埋まり、依頼達成はもう目前である。

その時だった。

シフォンの耳がぴくりと動く。

鼻をひくひくと鳴らす。

「ご主人様」

ターケシは薬草を摘みながら顔を上げる。

「ん?」

「獣の匂いがします」

ターケシは自分の袖を嗅ぐ。

「俺からか?」

「え?」

「昨日風呂に入らなかったからな」

ロザリアが呆れた顔をする。

「入っていましたでしょう」

「そうだったか」

「そうでしたわ」

ターケシは真面目に考えていた。

シフォンは慌てて首を振る。

「あ、そうじゃなくて……」

その時。

フィリアの顔色が変わった。

森の奥を見ている。

普段冷静な彼女が珍しく声を上げた。

「熊だ!」

ターケシは反射的に振り向く。

木々をなぎ倒しながら飛び出してくる巨大な影。

黒い毛皮。

人間よりはるかに大きな体躯。

立ち上がれば二メートルを超えるだろう。

大熊だった。

しかも。

真っ直ぐこちらへ向かってくる。

ターケシの脳が一瞬で状況を整理する。

距離。

速度。

位置。

そして。

一番近いのは――

ロザリア。

ロザリアも気付いている。

だが反応がわずかに遅れた。

戦闘準備をしていない状態からの奇襲。

無理もない。

ターケシは考えるより先に動いていた。

抱えていた薬草を放り捨てる。

地面を蹴る。

全力。

間に合え。

ただそれだけだった。

「っ!」

ロザリアの前へ滑り込む。

剣を抜く。

両手で握る。

そして。

突き出す。

次の瞬間。

どんっ――!!

衝撃。

熊の胸が剣にぶつかる。

完全には止まらない。

だが勢いがわずかに鈍る。

ターケシの足が地面を削る。

腕が痺れる。

重い。

地下闘技場のどんな相手より重い。

熊の力がそのまま剣を通して伝わってくる。

「ご主人様!」

シフォンの叫び。

「ターケシ!」

ロザリアの声。

ターケシは歯を食いしばる。

熊の牙が目の前にある。

獣臭い息。

血の匂い。

野生の殺意。

だが。

不思議と恐怖はなかった。

代わりに浮かんだのは別の感情だった。

(間に合った)

それだけだった。

ロザリアが無事ならそれでいい。

ターケシは足を踏ん張る。

剣を押し込む。

熊も唸る。

両者が一瞬拮抗する。

その隙に。

ロザリアの手に火が灯った。

フィリアはすでに枝を番えている。

シフォンも近くの太い枝を握り締めていた。

さっきまで薬草を摘んでいた四人。

だが今は違う。

ターケシは叫ぶ。

「落ち着け!」

三人がターケシを見る。

「熊は一匹だ!」

その声には不思議な力があった。

慌てるな。

考えろ。

できることをやれ。

それだけでいい。

ターケシは熊と組み合いながら叫ぶ。

「ロザリア!」

「はい!」

「顔だ!」

「分かりました!」

「フィリア!」

「任せてください!」

「シフォン!」

「はい!」

ターケシは一瞬だけ笑った。

「今度も離れとけよ!」

シフォンの耳がぴんと立つ。

「はいっ!」

そして。

四人にとって最初の本当の試練が始まった。

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