薬草採取
ゴブリンとの戦闘を終えたあと、ターケシは剣に付いた血を草で拭った。
周囲を警戒する。
魔物の気配はない。
「よし」
三人を見る。
「目当ての薬草を探そう」
シフォンが元気よく頷く。
「はい!」
「引き続き気をつけてな」
ターケシは森の奥を見る。
「戦いが終わった直後が一番危ない」
ロザリアが頷く。
「音に引き寄せられる魔物もいますものね」
「そういうことだ」
フィリアも周囲を観察している。
さすがに森の扱いには慣れているらしい。
四人は再び歩き始めた。
今度は先ほどより自然に隊列ができる。
先頭はシフォン。
その後ろにターケシ。
少し離れてロザリアとフィリア。
さっき決めた配置が、いつの間にか身についていた。
しばらく歩く。
森は次第に深くなっていく。
鳥の声。
木漏れ日。
風に揺れる葉。
そして。
「あ」
フィリアが足を止めた。
「どうした?」
ターケシが尋ねる。
フィリアは少し前方を指差した。
「あれではありませんか」
全員が視線を向ける。
そこには。
緑色の葉を広げた草が、斜面いっぱいに生えていた。
陽の当たり具合。
土の湿り気。
どれも薬草が育つにはちょうどいいのだろう。
まるで緑の絨毯だった。
ターケシは依頼書を取り出す。
薬草の絵と見比べる。
もう一度見る。
「……たぶんこれだな」
「たぶんですの?」
ロザリアが少し不安そうな顔をする。
ターケシは正直に答える。
「薬草採取は初めてだ」
三人が黙った。
ターケシは肩をすくめる。
「安心しろ」
「俺も不安だ」
ロザリアが額を押さえる。
フィリアが吹き出す。
シフォンだけは、
「一緒ですね!」
と嬉しそうだった。
ターケシは薬草を一本摘み取る。
匂いを嗅ぐ。
少し爽やかな香りがする。
「たぶん合ってる」
「たぶんばかりですわ」
「たぶんだからな」
しかしフィリアが薬草を観察し、頷いた。
「形も特徴も一致しています」
「本当か?」
「ええ」
ターケシはほっとした。
間違った草を大量に持ち帰るところだった。
「じゃあ採取開始だ」
四人は作業を始める。
シフォンは意外と器用だった。
耳を動かしながら黙々と摘み取っていく。
ロザリアは最初こそ不満そうだったが、やり始めると真面目に作業する。
フィリアは慣れた手つきで良いものだけを選んでいた。
ターケシはそんな三人を見ながら思う。
(戦いだけじゃないな)
薬草採取。
荷物運び。
野営。
警戒。
冒険者は戦うだけの仕事ではない。
むしろこういう地味な仕事の方が多い。
だからこそ。
こうして一緒に作業する時間も大事だった。
ふと見ると、シフォンが大きな籠を抱えていた。
かなり重そうだ。
しかし本人は平然としている。
「重くないか?」
「大丈夫です!」
「そうか」
「ご主人様より力あります!」
ターケシは少し傷ついた。
ロザリアが吹き出す。
フィリアも笑いを堪えている。
シフォンだけは悪気がない。
ターケシはため息をついた。
「……そのうち腕相撲でもするか」
「やります!」
即答だった。
そんなやり取りをしながら薬草を集めていく。
誰も気付いていなかった。
群生地のさらに奥。
木々の隙間から。
こちらをじっと見つめる視線があることに――。




