出会った瞬間
「火よ!」
ロザリアの声と共に、火球が放たれる。
轟っ――!
先頭にいたゴブリンが炎に包まれた。
悲鳴を上げる暇もない。
その瞬間にはもう、ターケシが飛び出していた。
地面を蹴る。
一直線。
迷いも躊躇もない。
ゴブリンは人を襲う魔物だ。
ここで見逃せば、いずれ誰かが死ぬ。
だから迷わない。
手にした剣を振り下ろす。
ごっ――!
鈍い音。
刃ではなく、重量で叩き潰すような一撃だった。
ゴブリンの頭頂に命中する。
頭蓋が砕け、魔物はその場に崩れ落ちた。
二体目がようやくこちらを向く。
遅い。
ターケシは踏み込む。
前蹴り。
全身の力を込めた一撃。
どごっ!
吹き飛んだゴブリンが仲間にぶつかる。
二体まとめて転がった。
そこでターケシは追撃する。
盾を構える。
そして振り抜く。
ぶんっ――!
鈍器そのものの一撃だった。
盾の縁が二体目の顔面を捉える。
骨が砕ける音。
血飛沫。
ゴブリンは地面に叩きつけられた。
しかし。
三体目はまだ生きていた。
ふらつきながら立ち上がる。
ターケシは間合いを詰めようとする。
その時だった。
ビシッ。
乾いた音。
ゴブリンが不自然によろめく。
何が起きたのか一瞬分からなかった。
次の瞬間。
ターケシは目を見開く。
ゴブリンの右眼。
そこに枝が突き刺さっていた。
即席の矢。
フィリアだ。
ターケシは思わず呟く。
「……俺がこいつじゃなくてよかった」
心からそう思った。
フィリアは少し離れた場所で静かに次の枝を構えている。
表情ひとつ変えていない。
ターケシは苦笑する。
敵に回したくない相手だ。
視界を戻す。
ゴブリンはまだ動いている。
眼球を貫かれながらも暴れている。
魔物らしい生命力だった。
ならば終わらせる。
ターケシは踏み込む。
剣を振る。
斜め右上から左下へ。
無駄のない一閃。
ざんっ――!
刃が肩口から食い込む。
鎖骨。
肋骨。
背骨。
まとめて断ち切る。
ゴブリンの身体が崩れ落ちた。
静寂。
風が吹く。
葉が揺れる。
戦いは終わっていた。
ターケシは周囲を確認する。
他に敵はいない。
「よし」
剣を下ろす。
振り返る。
シフォンは目を丸くしていた。
ロザリアも少し驚いている。
フィリアだけが冷静だった。
ターケシは三人を見る。
「怪我は?」
「ありません」
「大丈夫ですわ」
「問題ありません」
全員無事。
それが一番だった。
ターケシは頷く。
そしてシフォンを見る。
「最初に見つけたのはお前だ」
シフォンの耳がぴくりと動く。
「フィリアは援護」
フィリアが軽く会釈する。
「ロザリアは魔法」
ロザリアは少し誇らしげだ。
ターケシは最後に言った。
「いい連携だった」
三人とも少し驚いた顔になる。
褒められると思っていなかったのだろう。
だがターケシは本気だった。
ゴブリン三匹。
脅威ではなかった。
しかし――
誰も怪我をせず、
誰も慌てず、
役割を果たした。
それは十分評価に値する。
シフォンは嬉しそうに尻尾を振る。
ロザリアは照れ隠しに顔を背ける。
フィリアは静かに微笑んだ。
ターケシはそんな三人を見て思う。
(悪くない)
(本当に悪くないな)
薬草採取の依頼のはずだった。
だが、この日初めて。
ターケシは三人を「荷物」ではなく、「仲間候補」として見始めていた。




