決勝戦 アルセイン&エルフィナ 後編中段
「もういいでしょう。」
ロザリアは一歩踏み込む。
木剣が唸りを上げる。
カンッ!!
エルフィナは短剣でそれを受け流した。
「降参してください。」
「冗談を。」
再び剣がぶつかる。
カンッ! カンッ!!
だが。
誰の目にも明らかだった。
エルフィナは押されていた。
風の魔導士。
それが彼女の本領だ。
距離を取り、魔法で制圧する。
だが今。
ロザリアは一歩も離れない。
踏み込む。
斬る。
押す。
盾で打つ。
呼吸をする暇すら与えない。
「くっ……!」
エルフィナが後ろへ跳ぶ。
だが、その瞬間にはもうロザリアが踏み込んでいる。
「遅い。」
ガンッ!!
木剣が短剣を弾いた。
「あなたは、この大会に何を求めて来たのです。」
「何を……?」
「人間の男の心ですか。」
エルフィナの瞳が見開かれる。
「大層な目的ですこと。」
「黙りなさい!」
風が爆ぜる。
だが、ロザリアは怯まない。
「故郷を捨てて。」
カンッ!!
「短い人間の生に飛び込んで。」
ガンッ!!
「追いかけるものが、それですか。」
「うるさい!!」
エルフィナが叫ぶ。
その瞬間。
彼女の脳裏に、一人の青年の姿が浮かんだ。
◇
初めて会ったのは、王都から遠く離れた小さな酒場だった。
「あなた、いつまで死人に恋をしているの?」
酒を飲みながら、彼女はそう言った。
青年は答えなかった。
「図星?」
「……。」
「本当に面倒な人。」
彼は、少しだけ困ったように笑った。
その顔が。
何故だか忘れられなかった。
◇
盗賊退治。
魔獣討伐。
ダンジョン探索。
いつも彼は誰かを守っていた。
傷付いて。
泥だらけになって。
それでも。
「大丈夫か。」
誰かにそう声を掛ける。
「馬鹿ね。」
エルフィナは何度そう言ったか分からない。
「人間なんて、百年も生きられないのよ。」
「知ってる。」
「なら、もっと自分を大事にしなさい。」
「難しいな。」
そんな会話を、何度も繰り返した。
気付けば。
彼は、隣にいるのが当たり前になっていた。
◇
だが。
彼の瞳は、いつも遠くを見ていた。
「ロザリアという。」
初めて名前を聞いた日のことを覚えている。
「そういう名前だったの。」
「……ああ。」
「好きだったのね。」
「今でも。」
迷いなくそう答えた。
百年近く生きてきた。
だが。
あんな顔をする人間を、エルフィナは知らなかった。
だから。
知りたかった。
忘れられないという少女を。
そして。
会ってしまった。
◇
「本当に。」
エルフィナが小さく呟く。
「本当に、嫌な女。」
「何ですって?」
「だって。」
風が渦を巻く。
「アルセインが四年間忘れられなかった理由が、分かってしまったんですもの。」
ロザリアは何も答えない。
「だから。」
エルフィナは短剣を構えた。
「あなたには負けられない。」
風が、その刃へ集まっていく。
「私は。」
「彼の隣を歩くと決めたのですから。」
ゴォォォォッ!!
風が刃となり、短剣を包み込む。
観客席が息を呑む。
「風を剣に……!」
「魔法剣か!?」
ロザリアは静かに木剣を構えた。
「そう。」
「なら、来なさい。」
エルフィナが駆ける。
風を纏った渾身の一撃。
「はあああああっ!!」
正面からの斬撃。
だが。
ロザリアは動かなかった。
半身。
腰を落とす。
木剣を正中線へ。
「ハリントン流。」
静かな声。
「二の太刀――」
ガァァァンッ!!
風の刃が木剣を両断する。
「取った!!」
エルフィナが叫ぶ。
だが。
ロザリアの姿は、既にそこにはなかった。
半歩。
左へ。
紙一重で風の刃を躱していた。
そして。
「満月。」
木盾が閃く。
それは。
まるで夜空に浮かぶ満月のように。
いや。
一瞬だけ。
本当に淡く光ったように見えた。
パァァァンッ!!
「が……っ!?」
盾の一撃が、エルフィナの身体を吹き飛ばした。
観客席が総立ちになる。
「何だ今のは!?」
「盾が……光った!?」
「魔法か!?」
エルフィナの身体が石畳を転がる。
短剣が手から離れた。
立ち上がれない。
「勝負あり!!」
審判の声が響く。
「エルフィナ、戦闘不能!!」
歓声が闘技場を揺らした。
倒れたまま。
エルフィナは空を見上げる。
「負けましたか……。」
視界の端。
ロザリアが、静かに立っていた。
「ねえ。」
「何ですか。」
「アルセインのこと。」
「……。」
「幸せにしてあげてくださいね。」
ロザリアは少しだけ目を細めた。
「それは。」
「私が決めることではありませんわ。」
エルフィナは、小さく笑った。
「そういうところが。」
「やっぱり、嫌いです。」
だが。
その顔は、どこか晴れやかだった。




