決勝戦 アルセイン&エルフィナ 中編
「国王陛下、御入場!!」
号令と共に、闘技場に設けられた大扉がゆっくりと開いた。
一瞬。
数万人の観客が、一斉に立ち上がる。
「陛下だ!!」
「レオポルド三世陛下!!」
「国王陛下万歳!!」
割れんばかりの歓声。
赤い絨毯の上を、白髪の老人がゆっくりと歩いてくる。
レオポルド三世。
王国の現国王。
若き日には北方戦争の講和をまとめ、多くの血を止めた「賢王」。
深く刻まれた皺は歳月を物語っていたが、その足取りは未だ確かだった。
その後ろには、王太子エドゥアルド。
第二王子アルフォンス。
宰相クラウゼン。
服務大臣ヴォルマン。
そして、王国の重臣たちが続いている。
「陛下ー!!」
「お元気そうで何よりです!!」
観客席から声が飛ぶ。
王は足を止めると、小さく手を上げた。
それだけで、歓声は更に大きくなる。
「ふむ。」
王は満足そうに目を細めた。
「良いな。」
「祭というものは、こうでなくては。」
その隣で、ヴォルマンが小さく咳払いをする。
「陛下。」
「本日は王宮公認闘技大会の決勝でございます。」
「分かっておる。」
「余もそれを楽しみにしておるのだ。」
クラウゼンは無言。
アルフォンスだけが、くすりと笑った。
「さて。」
国王は貴賓席へ腰を下ろす。
「今日の主役は余ではない。」
その視線が、闘技場の中央へ向く。
「若者たちだ。」
◇
「これより!!」
魔導拡声器を手にした司会役の声が、闘技場全体へ響き渡る。
「王宮公認闘技大会、決勝戦を開始いたします!!」
歓声。
拍手。
絶叫。
「東門より入場!!」
「地下格闘技大会優勝者!!」
「灰狼族の少女、シフォン!!」
「そして!!」
「ハリントンの名を継ぐ者!!」
「ロザリア・フォン・ハリントン!!」
ドォォォォッ!!
東側の門が開く。
「地下の話まで宣伝されてるぞ。」
観客席で、ターケシが思わず呟いた。
「王宮もなかなか商売上手ですね。」
フィリアが小さく微笑む。
「というか、地下格闘技大会って言っちゃっていいのか?」
「今さらでは?」
「まあ、そうか……。」
シフォンは、そんな二人の会話など耳に入っていない。
「ご、ご主人様……。」
「足が震えてきました……。」
「今さらか。」
「だって、国王陛下が見てるんですよ!?」
「昨日から知ってただろ。」
「知ってましたけどぉ……!」
シフォンが、震える足を叱咤するように一歩を踏み出す。
黒い短髪。
灰色の耳。
二本の木剣。
「シフォーン!!」
「頑張れー!!」
「灰狼族の誇りを見せてくれー!!」
続いて。
ロザリア。
木剣と木盾。
金色の髪が陽光を受けて輝いている。
「ロザリア様ー!!」
「ハリントンの剣を見せてくれ!!」
「負けるなー!!」
かつて反逆貴族と呼ばれた名に、今は歓声が送られていた。
ロザリアは思わず目を見開く。
「ロザリアさん。」
隣でシフォンが小さく笑う。
「みんな、応援してます。」
「……ええ。」
ロザリアは小さく息を吐いた。
「不思議なものですわね。」
◇
「西門より入場!!」
「王国最強の若き騎士!!」
「アルセイン!!」
「そして!!」
「森より来たりし風の魔導士!!」
「エルフィナ!!」
再び歓声が上がる。
白いマントを翻し、アルセインが姿を現す。
その隣には、長い緑髪を揺らすエルフィナ。
「アルセイン!!」
「優勝だー!!」
「王国最強を見せてくれ!!」
「エルフィナ様ー!!」
「風の魔法だ!!」
アルセインは静かに闘技場を見渡した。
国王。
王太子。
アルフォンス。
そして。
東門に立つロザリア。
「……。」
四年。
長かった。
だが。
今日で終わる。
隣では、エルフィナが小さく微笑んでいた。
「行きましょう。」
「ああ。」
二人は中央へ歩き出す。
◇
「それでは!!」
「両者、前へ!!」
四人が向かい合う。
シフォン。
ロザリア。
アルセイン。
エルフィナ。
王都中が見守る中。
国王が、ゆっくりと立ち上がった。
「見事である。」
場が静まる。
「種族も。」
「身分も。」
「生まれも。」
「歩んできた人生も違う。」
「だが。」
老人の瞳が、四人を見つめる。
「今日、この場に立つ資格があることだけは同じだ。」
誰も言葉を発しない。
「ならば。」
王は小さく笑った。
「存分に戦え。」
「余に、良いものを見せてくれ。」
数秒の静寂。
そして。
「「「はっ!!」」」
三人の声が重なる。
「ひ、ひゃい!!」
一拍遅れて、シフォンの裏返った返事が闘技場に響いた。
「…………。」
数万人が沈黙する。
「ぶっ……。」
観客席で、ターケシが慌てて口を押さえた。
「くくっ……。」
フィリアは口元を隠したまま、肩を小さく震わせている。
ロザリアの顔は真っ赤だった。
緊張のせいなのか。
それとも、隣の相棒のせいなのか。
「シ、シフォン!」
「ご、ごめんなさいぃ!!」
王は、何も言わなかった。
ただ。
ほんの僅かに、その口元が緩んだように見えた。
審判が旗を掲げる。
「構え!!」
シフォンが二刀を抜く。
ロザリアが木盾を構える。
アルセインが木剣を握る。
エルフィナの周囲に風が集まり始める。
観客たちが息を呑む。
誰もが知っていた。
これが、王宮公認闘技大会最後の試合。
そして。
一部の者が知っていた。
王国の未来へと続く、一つの分岐点であることを。
「始めッ!!」
カァァァンッ!!
澄み渡る鐘の音が、王都の空へ響き渡った。




