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奴隷市場から始まる異世界冒険譚―第一部王都編  作者: たーけし
王宮公認闘技大会

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準決勝 紅獅子レオンハルト&セシリア 後編

「ロザリア。」

「あなた、本当に帰ってきたのね。」

セシリアの呟きは、歓声とざわめきの中に溶けていった。

カンッ!!

木剣が激しくぶつかり合う。

「……帰ってきた。」

ロザリアは小さく繰り返す。

「そう見えますか?」

「ええ。」

セシリアは剣を構えたまま答える。

「昔と同じ。」

「真っ直ぐで。」

「誰よりも強くて。」

「ハリントン家の娘だった頃の、貴女に。」

ロザリアは答えない。

ただ、静かに木剣を構え直した。

「怖かったの。」

不意に、セシリアが言った。

「父も母も、関わるなと言った。」

「助ければ、次は私たちだって。」

木剣が交差する。

「私は……。」

セシリアは唇を噛む。

「何もできなかった。」

ロザリアは静かに聞いていた。

「知っています。」

「え……?」

「私でも、同じだったかもしれません。」

セシリアの目が揺れる。

「ですが。」

ロザリアの声は静かだった。

「許せるかどうかは、別です。」

次の瞬間。

ロザリアの木剣が、大きく振り上げられる。

「はぁっ!!」

「甘いですわ!」

セシリアが踏み込む。

切っ先が真っ直ぐロザリアの胸を捉える――。

だが。

「甘いのはそちらですわ。」

半歩。

身体を捻る。

木剣が左腕を掠めた。

「なっ――!?」

気付いた時には、ロザリアは懐へ潜り込んでいる。

背中を合わせる。

「これは、私のご主人様に教わった技です。」

「ごしゅじんさま!?」

セシリアの右腕を取る。

腰を落とす。

「はぁっ!!」

ドォンッ!!

バネのような全身がセシリアを持ち上げる。

一本背負い。

「きゃっ!?」

セシリアの身体が宙を舞い、

木剣が石畳の上を転がる。

体を何とか起こすセシリアに突きつけられる木剣。

「降参してください、セシリア。」

「……負けたわ。」

セシリアの身体から力が抜けた。

「そこまで!!」

審判が旗を掲げる。

観客席がどよめく。

「投げた!?」

「今、何をした!?」

「騎士の試合じゃないぞ!」

「いや、強い……!」

かつての親友の顔を眺める。

ロザリアの呟きは誰にも聞こえない。

「私の居場所は、王都にあるのでしょうか。」

「 帰ってきて本当によかったのかしら…。」

◇

レオンハルトは強かった。

その一撃一撃は、巨大オーガを思わせるほど重い。

ガァンッ!!

振り下ろされた大剣をシフォンが二刀で受け止める。

「くっ……!」

腕が痺れる。

だが。

「ロザリアさん!」

「帰ったら、またみんなでご飯にしましょう!」

「ご主人様も、フィリアさんも、フウも待ってます!」

セシリアを倒して駆けつけるロザリアが、思わず目を見開いた。

「だから!」

シフォンが笑う。

「だから、帰る場所のことは、帰ってから考えましょう!」

――そうでしたわね。

私は、もう一人ではない。

「ええ。」

ロザリアは木剣を握り直した。

「勝って帰りましょう。」

ここからは、二人の時間だった。

シフォンが前へ出る。

右。

左。

低く。

高く。

巨大な木剣の間合いを、紙一重で潜り抜ける。

かつて巨人スケルトンと戦った時のように。

「ちょこまかと!!」

レオンハルトが木剣を担ぐように振り上げる。

「これで終わりだ!!」

袈裟斬りに斜めに振り下ろされた大剣は、一際鋭かった。

シフォンは左に転がるように躱しながら深くしゃがみ込む。

地面に這いつくばるほど低く。

ブォ゙ンッ!!

巨大な木剣が頭上を通り過ぎた。

「避けた!?」

「今のを!?」

観客が総立ちになる。

そして。

シフォンの背後。

腰だめに木剣を構えたロザリアがいた。

父の背中。

姉の笑顔。

ハリントン家の屋敷。

ターケシ、シフォン、フィリア、フウ

「ハリントン一の太刀――。」

「流星。」

次の瞬間。

木剣が流星のように閃いた。

ドォォォンッ!!

大きく右に円弧を描いて放たれた渾身の突きが、レオンハルトの胸を捉える。

鎧を凹ませながら、巨体が宙を舞った。

数メートル吹き飛び、石畳の上を転がる。

静寂。

観客席の中ほど。

旅装束の中年男が、ゆっくりと立ち上がった。

「ああ……。」

「間違いねぇ。」

北部の訛り。目には涙が浮かんでいた。

「流星だ。」

「ガレオス殿の……。」

「ハリントン一の太刀だ!!」

次の瞬間。

闘技場が揺れた。

「北部の剣!!」

「ハリントン家だ!!」

「ロザリア・フォン・ハリントン!!」

「帰ってきたぞ!!」

レオンハルトは仰向けのまま笑った。

「参った。」

「なるほど。」

「これが、お前たちの強さか。」

審判が旗を掲げる。

「勝者!!」

「シフォン&ロザリア組!!」

万雷の拍手。

歓声。

割れんばかりの喝采。

まだ蹲ったセシリアは、目の前に立つ、親友に声をかける。

「お帰りなさい、ロザリア。」

ロザリアは歓声を浴びながら、セシリアを抱え起こす。

「ええ。今戻りました。」

「ハリントン家の娘であることは、昔と変わりません。」

そして。

その言葉は、隣にいるシフォンと、目の前のセシリアにしか聞こえないほど小さな声だった。

「ですが。」

「今の私は、ターケシ、シフォン、フィリア、フウ……。」

「風変わりな冒険者一行の仲間です。」

シフォンの耳が、ぴくりと動く。

セシリアは一瞬目を見開き――そして、小さく笑った。

「そう。」

「なら、あなたはもう大丈夫ね。」

準決勝。

その日。

王都は、北部の剣の帰還を祝福した。

だが。

風変わりな仲間たち。彼らが待つ場所。

それが、今のロザリアの帰る場所だった。

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