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奴隷市場から始まる異世界冒険譚―第一部王都編  作者: たーけし
王宮公認闘技大会

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118/134

1回戦 鉄鎖兄弟グロム&バルド

王宮公認闘技大会、一回戦。

開会式から程なくして、二人の名前が呼ばれた。

「第一試合! シフォン&ロザリア組! 対するは、『鉄鎖兄弟』!」

闘技場に歓声が響く。

元傭兵の兄弟。

兄グロム。

弟バルド。

二人とも筋骨隆々の大男であり、木斧と木盾を構えていた。

「相手は女二人か。」

グロムが鼻を鳴らす。

「しかも獣人と貴族のお嬢様だ。元、らしいがな。」

バルドも肩を回した。

「悪いな。運がなかった。」

観客席から笑い声が漏れる。

「五分持てばいい方だ!」

「怪我しないうちに降参しろよ!」

シフォンは観客席を見上げた。

数万人の視線。

先ほどまでなら、その熱気に飲まれていたかもしれない。

だが。

隣にはロザリアがいる。

観客席にはターケシとフィリアがいる。

ターケシは腕を組み、ただ一言だけ告げた。

「いつも通りだ。」

「はい!」

「ええ。」

二人は相手へ向かい、木剣を胸の前へ立て、軽く頷いた。

試合前の騎士の挨拶。

「始め!」

鐘が鳴る。

「盾を割れ! 獣人は俺が押さえる!」

「了解だ!」

鉄鎖兄弟が同時に踏み込んだ。

元傭兵。

伊達に修羅場を潜ってはいない。

兄グロムは正面からシフォンへ。

弟バルドは盾を構えたまま、回り込むようにロザリアへ迫る。

木斧が唸りを上げた。

シフォンは右の木剣で受け流し、左の木剣で打ち返す。

乾いた音が響く。

だが、グロムも簡単には崩れない。

「いい一撃だ……!」

盾を前へ。

再び木斧を振るう。

戦場で培った、堅実な戦い方。

重い一撃がシフォンの肩を掠め、観客席から悲鳴が上がった。

「シフォン!」

「大丈夫です!」

シフォンは前を見る。

怖くない。

王宮の訓練場で、何百回も木剣を振ってきた。

「もう一度!」

一歩。

また一歩。

左右の連撃。

上下の打ち分け。

二刀から放たれる重い一撃が、少しずつグロムの盾を下げていく。

一方。

バルドは盾を前へ出し、体格差を活かしてロザリアを押し潰そうとしていた。

「おらぁっ!」

盾による突進。

だが、ロザリアは半歩だけ身を引く。

次の瞬間、木剣が流星のように閃いた。

少なくとも、この場にいる者にはそう見えた。

袈裟懸け。

切り上げ。

手首への打ち込み。

まるで流れ星のような連撃だった。

「ちっ!」

バルドが盾で受ける。

その瞬間。

「そこですわ。」

木剣を盾の表面に滑らせ逃がす。

続けて、左手の木盾が鋭く差し込まれた。

ごっ。

鈍い音。

顎先を打たれたバルドの視界が揺れる。

「何だ、この女……!」

ロザリアは答えない。

ただ静かに木剣と木盾を構え直した。

「シフォン!」

「はい!」

短い声は、制圧の合図。

次の瞬間。

シフォンが踏み込む。

右腕の木剣が振り下ろされた。

グロムは咄嗟に盾を掲げる。

カァンッ!!

凄まじい衝撃。

「ぐっ……!?」

重い。

片手剣とは思えない。

獣人の膂力と、鍛え上げられた足腰が乗った一撃は、盾ごと腕を押し下げた。

その瞬間。

左腕の木剣が、一拍遅れて真横に振り抜かれる。

ゴッ!!

「がっ!?」

盾の上から覗いた無防備な兜を、強かに打ち据える。

こめかみを打たれて視界が揺らぐ。

そして。

「喰らえっ!!」

ドォンッ!!

シフォンが地面を蹴った。

まるで弾丸のような体当たりが、グロムの巨体へ直撃する。

「がはっ!?」

大男の身体が、宙を舞った。

数メートル吹き飛ばされたグロムは、石畳の上を転がり、そのまま動かなくなる。

闘技場が静まり返る。

その頃には、手首を痛打されたバルドの木斧も地面へ落ちていた。

ロザリアの木剣が、その顎先へ突きつけられている。

「降参、してくれるかしら?」

尊大な女王のような笑み。

バルドはしばらく呆然としていたが、何とか絞り出すように呟く。

「……参りました。」

審判が旗を掲げる。

「勝者! シフォン&ロザリア組!!」

一瞬の静寂。

そして。

うおおおおおおおおっ!!

闘技場が揺れた。

「何だ、あの獣人は!?」

「二刀流だと!?」

「最後、吹き飛ばしたぞ!」

「あの金髪の娘、近衛騎士みたいな剣を……!」

「待て! 本当に初出場か!?」

観客席。

ターケシは腕を組んだまま、小さく笑った。

「言っただろ。」

「お前たちは強い。」

それは観客へ向けた言葉ではない。

地下闘技場で拳を交え。

王宮の訓練場で木剣を振り続け。

何度倒れても、立ち上がってきた二人へ向けた言葉だった。

フィリアも小さく拍手を送る。

「ええ。」

「少し、驚かせ過ぎたかもしれませんね。」

闘技場の中央。

シフォンは、信じられないという顔をしていた。

「か、勝ちました!」

「ええ。」

ロザリアが微笑む。

「まずは一勝です。」

数万人の視線が、二人へ注がれている。

もう誰も、第二王子の道楽とは呼ばないだろう。

王宮公認闘技大会。

その日、王都は二人の名前を初めて知った。

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