情報戦において
王都では、そこかしこで優勝タッグを当てる賭博が行われていた。
無論、違法である。
だが、取り締まりはほとんどない。
祭りに賭け事は付き物。
王都の人々にとって、それはもはや王宮公認闘技大会の風物詩となっていた。
「今年は紅獅子だ!」
「馬鹿言え! アルセイン様に決まってる!」
「白銀槍兵団も捨て難いぞ!」
「獣人と元貴族の娘? ははっ! 金を捨てる気か!」
酒場。
広場。
屋台。
至る所で予想屋が声を張り上げる。
優勝候補。
ダークホース。
勝率。
倍率。
誰もが好き勝手な予想を口にしていた。
もっとも。
シフォンとロザリアのタッグに金を賭ける者は、ほとんどいない。
獣人の少女。
没落貴族の娘。
王宮の訓練場を借りて武芸ごっこをしている。
世間の認識は、その程度だった。
◇
開会式を終えたターケシたちは、選手控室へ通されていた。
木製の長机。
壁に掛けられた対戦表。
緊張した面持ちの選手たち。
シフォンは落ち着かない様子で耳を動かしている。
ロザリアは静かに目を閉じて呼吸を整えていた。
そんな中、フィリアが一枚の紙を差し出した。
「これを。」
「アルフォンス第二王子が……正確には、彼の側近たちがまとめた有力な対戦相手の一覧です。」
ターケシは眉をひそめる。
「……こりゃまた、随分なチート情報だな。」
紙を広げる。
一回戦。
「鉄鎖兄弟」
グロム、バルド。
元傭兵の兄弟。
木斧と小盾を扱うパワーファイター。
二回戦。
「白牙族の双爪」
ラウル、ミーナ。
白牙族の戦士兄妹。
三回戦。
「黒鷲商会の双刃」
ヴァレス、ノクト。
大商人推薦。
準々決勝。
「白銀槍兵団」
ギルベルト、エミリア。
王国軍精鋭。
準決勝。
「紅獅子」
レオンハルト、セシリア。
前年度準優勝。
優勝候補。
セシリアはロザリアの貴族時代の旧友。
そして。
決勝戦。
アルセイン、エルフィナ。
王国最強の若手騎士。
森の名門出身の上級風魔法使い。
アルセイン。
ロザリアの幼なじみにして、騎士学校時代の好敵手。
ターケシは紙から目を離し、小さく息を吐いた。
「今すぐこれを賭博屋に持って行けば、金貨五百枚くらい稼げるかもしれんな。」
「情報戦です。」
フィリアが静かに言う。
「どのチームも、多かれ少なかれやっています。」
「我々は有力候補です。」
ターケシが顔を上げる。
「そうか?」
「ええ。」
フィリアは迷わず頷いた。
「ただし、本人たち以外はそう思っていません。」
「我々の情報は、地下格闘技大会と先日の近衛騎士団との合同訓練のみ。」
「どちらも、公式には非公開です。」
地下格闘技大会は文字通り地下の世界。
普通の出場者なら、名前が表に出るだけでスキャンダルになりかねない。
近衛騎士団との合同訓練も、王宮関係者以外は知る由もない。
王都の人々から見れば。
シフォンとロザリアは、アルフォンス第二王子の気まぐれ。
あるいは、奴隷に対する慈しみ深き恩恵。
そんな程度の認識だった。もちろん侮りを込めて。
誰も知らないのだ。
獣人の少女が地下格闘技大会を制したことを。
没落貴族の娘が、その決勝まで勝ち上がったことを。
彼女達を含む冒険者一行が、ジャイアントワームを滅し、巨人を葬り、オーガを倒し、王都を危機から救ってきたことを。
ターケシは紙を折りたたみ、ロザリアへ視線を向ける。
「準決勝と決勝だけは、少し事情が違うな。」
ロザリアは静かに目を開いた。
「……ええ。」
「セシリアも、アルセインも。」
「私のことを知っています。」
ターケシは頷く。
「向こうも、気にしてるだろうさ。」
「四年前に消えた没落貴族の娘が、王宮公認闘技大会に戻ってきたんだ。」
控室の外から、歓声が響く。
次の試合が始まったのだろう。
ターケシは紙を丸めながら呟く。
「まあ、いい。」
「どうせ優勝するなら、最後に全部まとめて驚かせてやればいい。」
シフォンが元気よく立ち上がる。
「はい!」
フィリアは小さく微笑んだ。
「それに、正体を隠せるのも今日までかもしれませんね。」
王宮公認闘技大会。
それは、彼女たちの実力を王国中へ知らしめる舞台でもあった。




