↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷市場から始まる異世界冒険譚―第一部王都編  作者: たーけし
闘技大会へ 後編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
115/134

光と闇

少し離れた場所では、シフォンも二本の木剣を構えていた。

向かい合うのは若い近衛騎士。

互いに木剣を胸の前へ立て、軽く頷く。

「お願いします。」

「お願いします!」

合図と同時に、シフォンが踏み込んだ。

右。

左。

木剣が立て続けに振るわれる。

近衛騎士は木盾と木剣で懸命に受け止める。

乾いた音が何度も訓練場へ響いた。

しかし、攻撃は止まらない。

右を防げば左。

左を払えば右。

同時に迫ったかと思えば、今度はわずかに間を置いてもう一振り。

近衛騎士は反撃へ転じる隙を見つけられない。

シフォンはターケシに教わったとおり、足を止めなかった。

一歩。

また一歩。

絶えず間合いを詰め続ける。

鍛え上げられた足腰が踏み込みを支え、体幹の強さが二本の木剣へ余すことなく力を伝える。

片手剣とは思えないほど重い打ち込みが、盾ごと騎士の身体を揺らした。

「くっ……!」

近衛騎士は思わず半歩下がる。

その瞬間には、もうシフォンは目の前にいた。

右の木剣が兜を打つ。

受けようと上がった木盾の脇を、左の木剣が胴へ走る。

休む暇を与えない。

守れば守るほど押し込まれる。

攻めようとすれば、その前に木剣が飛んでくる。

近衛騎士は防ぐだけで精一杯だった。

それでも懸命に踏みとどまり、木剣を振るう。

シフォンは引かなかった。

真正面から打ち合い、さらに一歩前へ出る。

左右の木剣が絶え間なく唸りを上げる。

やがて近衛騎士は木剣を下ろし、大きく息を吐いた。

「……参りました。」

木剣を胸の前へ立て、深く頷く。

シフォンも二本の木剣を胸の前へ立て、ぺこりと頭を下げた。

「ありがとうございました!」

交代に出てきた別の近衛騎士は、その様子を見て息をのみ、木剣を握り直す。

先ほどまでの余裕は、もうどこにもなかった。

◇

さらにその隣では、ロザリアも木剣と木盾を構えていた。

向かい合うのは若い近衛騎士。

互いに木剣を胸の前へ立て、軽く頷く。

「お願いします。」

「お願いします。」

静かに間合いを詰める。

近衛騎士は思わず目を細めた。

構え。

盾の位置。

足運び。

どれも王国近衛騎士団が教える基本に忠実だった。

「北部流か……。」

そう思った瞬間だった。

ロザリアが踏み込む。

木剣が真っ直ぐ兜を狙う。

盾で受ける。

間髪入れず二の太刀。

三の太刀。

速く、正確な打ち込みが盾を揺さぶり続ける。

近衛騎士は反撃へ転じた。

その瞬間、ロザリアは木盾で受け止めなかった。

半歩だけ身を開き、木剣を滑らせるように相手の一撃を逸らす。

勢いの乗った近衛騎士の身体がわずかに流れる。

返す木剣が肩口を打った。

「……!」

間合いを切る。

また構える。

近衛騎士は今度こそ慎重に攻めた。

盾を前へ出し、堅実に距離を詰める。

ロザリアは迎え撃つ。

盾同士がぶつかる。

だが力比べはしない。

押し返すでもなく、受け止めるでもない。

盾をわずかに傾け、相手の力を横へ流す。

踏み込んだ騎士の足が一歩前へ残る。

その一瞬。

ロザリアは自ら間合いを潰した。

木盾で相手の盾を押し上げる。

木剣が脛を打つ。

体勢を崩した騎士が咄嗟に木剣を振り上げる。

その起こりを逃さず、返す木剣が兜の前で静かに止まった。

近衛騎士は大きく息を吐く。

「……参りました。」

木剣を胸の前へ立て、深く頷く。

ロザリアも同じように木剣を立て、穏やかに頭を下げた。

「ありがとうございました。」

交代した近衛騎士は、木剣を握ったまま小さく呟く。

「……騎士の剣なんだ。」

隣の騎士も頷く。

「ああ。」

しかし、先ほど戦った騎士はゆっくり首を振った。

「なのに……何かが違う。」

しばらく黙り込む。

言葉を探すように視線を落とし、やがてぽつりと漏らした。

「……まるで、人と戦っている気がしなかった。」

誰も、その意味を問い返さなかった。

問い返したところで、答えられる者はいなかったからだ。

◇

日が傾き始める頃。

リディアが訓練の終了を告げた。

若い近衛騎士たちは汗を拭いながら、それぞれ木剣を収めていく。

シフォンは肩で息をしながらも、どこか誇らしげだった。

ロザリアは木盾を見つめ、小さく目を閉じる。

フィリアはいつものように静かに微笑んでいる。

ターケシは訓練場を見回した。

「どうだ。」

シフォンが笑う。

「負ける気がしません!」

「言うようになったな。」

ロザリアも口元を緩める。

「少なくとも、王宮公認闘技大会へ出る資格はあると思いたいですわ。」

フィリアは小さく頷いた。

「ええ。後は本番だけです。」

ターケシは空を見上げる。

数日後。

王宮公認闘技大会が始まる。

「……そうだな。」

「ここまで来た。」

王都中の強者が集う大会。

賞金。

名誉。

それぞれの願い。

全てを懸けた戦いが、もうすぐ始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。