近衛騎士団との他流試合
数日後。
アルフォンス第二王子の計らいにより、王宮訓練場で近衛騎士団との合同訓練が行われた。
訓練場には若い近衛騎士たちが整列している。
木剣。
木盾。
乱れのない姿勢。
王国を守る精鋭らしい空気が漂っていた。
シフォンは思わず息を呑む。
「……強そうです。」
ターケシは静かに頷く。
「ああ。」
「でも、お前たちも強いぞ。」
不敵に笑った。
アルフォンス王子の腹心、リディアが中央へ進み出る。
「本日は合同訓練です。」
「まずはタッグ戦。」
「勝敗よりも、互いに学ぶことを目的とします。」
双方が礼を交わした。
「始め!」
近衛騎士二人は息がぴたりと合っていた。
盾役が前へ出る。
剣士が半歩後ろから援護する。
攻守の切り替えは速く、隙がない。
シフォンとロザリアも応戦する。
剣がぶつかる。
盾が押し合う。
互いに決め手を与えない。
やがてシフォンと騎士の木剣が激しくぶつかった。
鍔迫り合いになる。
騎士は力で押し返そうとする。
その瞬間だった。
シフォンは押し返さない。
相手の力を利用して腕を取る。
腰を落とす。
「はっ!」
騎士の体が宙を舞った。
どさり。
「待て!」
リディアが手を挙げた。
訓練場から小さなどよめきが起こる。
「今のは……。」
「投げた。」
「剣で戦っていたはずなのに。」
若い騎士たちが顔を見合わせる。
投げられた騎士は驚いた表情で立ち上がる。
シフォンも木剣を構え直した。
「始め!」
再び試合が動き出す。
何をしてくるかわからない…そんな警戒からか、騎士二人の動きがどこかぎこちない。
ロザリアが突きを立て続けに放つ。
レイピア使いのロザリアの突きは速く正確。
何度も騎士の盾を揺さぶる。
防御か、反撃か。一瞬の躊躇を生む。
その瞬間、斜め後方からシフォンがスライディング。
足を絡ませる。
堪えもできずその騎士は足を巻き込まれて前へ倒れた。
「待て!」
再びリディアが手を挙げる。
他方の騎士が、
「こんなのは試合ではない!」
兜を投げ捨て、ターケシを睨みつけながらリディアに食ってかかる。
「…確かにそうだな。」
「…気持ち、わかる。」
ターケシとフィリアが静かに同意する。
「互いに学ぶことを目的とする、と言っただろう。正統なルールどおりの試合なら他流試合は組まない。戦場で培った戦い方を学ぶための合同訓練だ。
戦場で、試合にならないとゴネても仕方ないだろう。」
リディアに諭されて、その騎士はしぶしぶ兜を被り直した。
試合は時間いっぱい続き、リディアが終了を告げた。
「そこまで!」
勝敗はつかなかった。
互いに礼を交わし、パチパチとどこか戸惑ったような拍手が起こる。
◇
リディアがシフォンへ歩み寄る。
「さっきの投げ。」
「試合なら、あそこで止めます。」
ターケシも歩み寄る。
「ああ。」
少し間が空く。
二人の声が重なった。
「「だが実戦なら、そこで終わらない。」」
訓練場が静まり返る。
ターケシは静かに言った。
「倒れた相手が立ち上がるまで待ってくれる敵はいない。」
「倒した方は追撃する。」
近衛騎士隊長の壮年の男も深く頷く。
「……そのとおりです。」
ターケシはシフォンを見る。
「投げた後、お前ならどうする。」
シフォンは迷わず答えた。
「絞めます。」
ターケシは頷く。
「相手がゴブリンなら。」
「刺します。」
「オークでも。」
「刺します。」
その声に迷いはなかった。
近衛騎士隊長は静かに笑う。
「なるほど。」
「試合だから勝負は止まりました。」
「実戦なら、あの時点で勝敗は決していました。」
ターケシは木剣を肩へ担ぐ。
「冒険者は、生きて帰るために戦う。」
「勝つことは、そのための手段だ。」
「負けそうなら逃げる。」
フッと不敵に笑った。
「それが、俺達の生き方だ。」




