ちゃんこ鍋を作らせてみました
食堂へ入った瞬間、シフォンは思わず足を止めた。
「……わぁ。」
大きな鍋が、卓の中央で湯気を立てていた。
ぐつぐつと音を立てる黄金色のスープ。
大きく切られた肉。
葉野菜。
きのこ。
根菜。
豆腐によく似た白い食材。
見たこともないほど具だくさんの鍋だった。
ロザリアも目を丸くする。
「これが……今日の夕食ですの?」
ターケシは頷いた。
「ああ。ちゃんこ鍋だ。」
「ちゃんこ?」
「俺の故郷じゃ、武術の稽古をした後によく食べる料理だ。」
フィリアが鍋を覗き込む。
「こんなに具を入れるの?」
「何を入れてもいい。」
ターケシは笑った。
「肉があれば肉を。」
「魚があれば魚を。」
「野菜があれば野菜を。」
「大事なのは、みんなで腹いっぱい食べることだ。」
シフォンが湯気を鼻でふんふんと鳴らす。
「いい匂いです……。」
ターケシは木杓子で鍋を軽くかき混ぜた。
「今日は稽古もきつかったからな。」
「たくさん食え。」
四人は席へ着いた。
「いただきます。」
湯気と一緒に、穏やかな声が重なる。
シフォンは恐る恐る肉を口へ運んだ。
「……おいしい!」
目を輝かせながら、今度は野菜を食べる。
「野菜まで、お肉の味がします!」
ロザリアも静かに頷いた。
「それぞれ別に煮たのではなく、一つの鍋で煮込んでいるから、お互いの旨味が溶け合っていますのね。」
ターケシは笑う。
「武術と少し似てる。」
三人が顔を上げる。
「剣も。」
「拳も。」
「柔道も。」
「相撲も。」
「一つだけじゃ足りない。」
「組み合わせれば、もっと強くなる。」
フィリアがくすりと笑った。
「結局、今日も武術の話になるのね。」
「いや。」
ターケシは首を振る。
「今日は飯の話だ。」
その一言に、食卓から笑いがこぼれた。
その時だった。
ターケシの隣で、小さな声がする。
「あぅ……。」
フウが鍋をじっと見つめていた。
ターケシは小さな器へ具を取り分ける。
ふうふう、と何度も息を吹きかけ、十分に冷ましてから差し出した。
「熱いからな。」
フウは恐る恐る一口。
もぐ。
もぐもぐ。
ぱっと顔が明るくなる。
「あぅ!」
嬉しそうに両手をぱたぱたと振った。
シフォンは思わず頬を緩める。
「かわいい……。」
フィリアも優しく頭を撫でる。
「おいしいみたい。」
フウは夢中で口を動かしている。
肉を食べ。
野菜を食べ。
柔らかく煮えた芋を頬張る。
その姿を見ているだけで、誰もが自然と笑顔になった。
ターケシは湯気の向こうに並ぶ三人と一人を見渡す。
厳しい稽古。
流れる汗。
震える腕。
その先にあるのは、この温かな食卓だった。
鍋はまだ静かに煮えている。
窓の外では、夕焼けが王都の屋根を茜色に染めていた。
ターケシは湯飲みを手に取り、小さく笑う。
「さあ、冷める前に食べよう。」
「明日も、生きるためにな。」




