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奴隷市場から始まる異世界冒険譚―第一部王都編  作者: たーけし
闘技大会へ 前編

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再会と契約

ロザリアの目から、大粒の涙があふれた。

「お、お父様……。」

震える声が漏れる。

「お亡くなりになったものとばかり……。」

鉄格子へ駆け寄り、両手でしがみつく。

向こう側の壮年の男も、ゆっくり立ち上がった。

頬はこけているが、鍛えられ体と鋭い目は往年の騎士を思わせた。

その男が震える手で鉄格子を握る。

そして、格子の隙間から伸ばされたロザリアの手へ、自分の手を静かに重ねた。

「……ロザリア。」

かすれた声だった。

「すまなかった。」

「私は……もう父親と名乗る資格などないと思っていた。」

鉄仮面の奥から、一筋の涙が伝う。

ロザリアは首を横へ振った。

「そんなことありません!」

「生きていてくださっただけで……。」

言葉にならない。

ガレオスはターケシへ視線を向けた。

「娘のこと……感謝する。」

ターケシは静かに首を振る。

「ハリントン子爵、礼を言われることではありません。」

「俺はここ最近、一緒に冒険してきただけです。」

「ここまで生き抜いたのは、この子自身の力なのですよ。」

ガレオスは小さく目を閉じる。

「……そうか。」

シフォンは袖で涙をぬぐっている。

フィリアは何も言わず、父娘を静かに見守っていた。

やがてガレオスが苦笑する。

「私はもう四年前に爵位を剥奪された。」

「子爵などではない。」

「顔を隠し、生き恥をさらして生きてきた。」

「それでも……。」

ロザリアを見る。

「もう一度、お前に会える日が来るとは思わなかった。」

しばらく誰も口を開かなかった。

その静寂を破ったのはターケシだった。

支配人へ向き直る。

「支配人。」

「ガレオスは、この闘技場の奴隷だな。」

支配人は表情一つ変えない。

「いかにも。その通りでございます。」

ターケシは即座に言った。

「金貨五百枚で買い取りたい。」

部屋の空気が止まる。

支配人の笑みだけが崩れない。

「……ほう。」

「分割払いだ。」

ターケシは机へ賞金袋を置いた。

「まず金貨百枚。」

「残り四百枚は、二週間待ってくれ。」

◇

支配人は腕を組み、わざとらしく目を閉じた。

「ううむ……。」

「正直申しまして、ガレオスを失うのは痛い。」

「彼はこの闘技場でも屈指の人気闘士ですからな。」

しばらく考え込む素振りを見せる。

やがて、ゆっくりとターケシを見る。

「ですが。」

「金貨五百枚いただけるのであれば、お譲りいたしましょう。」

「なっ……!」

思わず声を上げたのはガレオスだった。

「金貨五百枚だぞ!?」

「そんな額で奴隷が売買された話など聞いたこともない!」

支配人は穏やかな笑みを崩さない。

「ガレオス。」

「奴隷売買の契約に、奴隷本人が口を挟む権利はありません。」

その一言は、先ほどまでの柔らかな口調とは対照的に冷たかった。

ガレオスは唇を噛み締める。

何も言い返せない。

支配人はターケシへ向き直る。

「もちろん。」

「言ったからには、お支払いいただきます。」

「まず金貨百枚。」

「残り四百枚。」

「二週間以内に。」

「もし期限までに支払えなければ……。」

柔和な笑みのまま続ける。

「違約金の代わりとして、あなたご自身に奴隷となっていただきます。」

部屋が静まり返る。

ターケシは一拍も置かなかった。

「ああ。」

「構わない。そのつもりだった。」

支配人は笑みを深くした。

「契約成立です。」

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