そして二人の戦い
ロザリアが笑う。
「ここまで来ましたわね。」
シフォンも笑う。
「はい!」
◇
地下格闘技大会、決勝戦。
最後の試合。闘技場へ姿を現したのは、二人の少女だった。
灰色の獣耳とふさふさの尻尾を揺らすシフォン。
金髪碧眼のロザリア。
これまで数々の強敵を倒してきた二人へ、観客席から惜しみない拍手が送られる。
「まさか決勝が女同士とはな。」
「いや、ここまで来た実力は本物だ。」
「どっちが勝つ?」
主人公とフィリアも静かに見守っていた。
シフォンは少し照れくさそうに笑う。
「ロザリアさん。」
ロザリアも微笑み返した。
「決勝ですわ。」
二人は軽く拳を合わせる。
そして向かい合った瞬間、闘技場から自然と歓声が消えた。
観客は誰もが、この試合だけは見逃すまいと息を潜めていた。
「始め!」
鐘が鳴った。
しかし、どちらも飛び込まない。
互いの呼吸。
重心。
視線。
何百回と稽古した相手だからこそ分かる。
一歩目が勝負だった。
シフォンが低く構える。
ロザリアは半身になり、正拳を構えた。
次の瞬間。
ロザリアの正拳が走る。
シフォンは半歩だけ頭を外し、そのまま踏み込む。
組み付きたい。
ロザリアは組ませたくない。
正拳。
前蹴り。
裏拳。
シフォンは肩で受け、腕で流しながら距離を詰める。
あと半歩。
だがロザリアも読んでいる。
肩へ手を掛ける。
一本背負い。
しかし。
シフォンは腰を落とす。
地面へ根を張るように踏ん張った。
微動だにしない。
「!」
ロザリアがすぐ技を切る。
互いに距離を取る。
観客席からどよめきが起こった。
「あの投げが決まらない!」
主人公が腕を組む。
「……よく稽古したな。」
フィリアが小さく笑う。
「毎日見てきた光景です。」
再び激突する。
シフォンが組み付く。
ロザリアは体をひねる。
膝で重心を外す。
小外刈。
崩れない。
大内刈り
崩れない。
最後に一本背負い。
次々と技を仕掛ける。
しかし。
シフォンは崩れない。
脇を締める。
腰を落とす。
四股で鍛えた下半身が、地面へ根を張ったように動かない。
ロザリアも諦めない。
掌底。
肘打ち。
肩で押し返す。
何度も押し返そうとする。
汗が石畳へ落ちる。
呼吸は荒い。
足も震えていた。
それでも離れない。
主人公が静かに呟く。
「そこだ。」
シフォンはさらに腰を落とした。
両腕で押す。
脚で押す。
全身で押す。
一歩。
また一歩。
ロザリアが後退する。
なおも踏ん張る。
壁まで、あと数歩。
「負けませんわ!」
ロザリアが全身に力を込める。
押し返す。
しかし。
シフォンは止まらない。
「うううぅぅっ!」
腰を落とし。
脇を締め。
足裏で石畳を掴むように踏み込む。
さらに一歩。
鈍い音が響く。
ロザリアの背中が石壁へ触れた。
それでも終わらない。
シフォンは押し続ける。
ロザリアも押し返す。
互いの額が触れそうなほど近い。
荒い息が重なる。
ロザリアが笑う。
「ここまで来ましたわね。」
シフォンも笑う。
「はい!」
腕は震え。
脚は悲鳴を上げる。
数秒。
いや、二人には永遠にも感じられる時間だった。
やがて。
ロザリアの腕から、ふっと力が抜けた。
苦しそうに息を吐きながら、小さく笑う。
「……参りましたわ。」
その一言で。
シフォンもすぐ力を抜いた。
二人はその場へ座り込む。
しばらく立ち上がれない。
闘技場は静まり返っていた。
そして次の瞬間。
割れんばかりの拍手が響く。
審判がシフォンの腕を高く掲げた。
「勝者、シフォン!」
歓声が地下闘技場を揺らした。
シフォンは驚いたように周囲を見回す。
そしてロザリアへ手を差し伸べた。
「ありがとうございました。」
ロザリアはその手を取り、立ち上がる。
「完敗ですわ。」
「でも……。」
笑みを浮かべる。
「次は負けません。」
シフォンも笑った。
「私も、もっと強くなります。」
主人公はそんな二人を見つめ、小さく頷く。
「よくやった。」
シフォンとロザリアが主人公を見る。
二人とも笑顔だった。
主人公も笑う。
一か月の稽古。
流した汗。
積み重ねた基本。
そのすべてが、この決勝戦に詰まっていた。




