ある日森の中
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ターケシは三人を見回した。
ロザリアの魔法。
フィリアの弓。
そしてシフォンの身体能力。
大まかな実力は把握できた。
「さて」
森を見る。
木々が生い茂り、昼間でも奥は薄暗い。
薬草採取の依頼とはいえ、油断できる場所ではない。
「みんなの実力は分かった」
三人が姿勢を正す。
「行くか。森の薬草採取へ」
シフォンの耳がぴんと立った。
ターケシはまずシフォンを見る。
「シフォン」
「は、はい!」
「獣人は鼻が利くな?」
「はい!」
少し誇らしそうだ。
ターケシは頷く。
「偵察だ。先頭を行け」
シフォンが目をぱちくりさせる。
「わ、私がですか?」
「ああ」
ターケシは自分の胸を親指で差す。
「すぐ後ろに俺がつく」
その一言でシフォンの表情が少し和らぐ。
「何か感じたらすぐ知らせるんだ」
「はい!」
耳が誇らしげだ。
次にロザリアとフィリアを見る。
「二人は後衛」
「後衛ですの?」
「…私は構いませんよ」
ターケシは続ける。
「ロザリアは魔法がある。フィリアは遠くを見るのが得意そうだ」
フィリアが少し感心した顔になる。
「…よく分かりましたね」
「弓を使う奴は目がいい」
前世の知識と経験からの推測だった。
ターケシは二人に言う。
「気付いたことがあったら教えてくれ」
「敵でも薬草でも足跡でも何でもだ」
「一人で判断しなくていい」
「分かりましたわ」
「…承知しました」
役割が決まった。
ターケシは内心で頷く。
いきなり戦う必要はない。
まずは隊列を覚えることだ。
誰が何を得意とするのか。
どこを見ているのか。
それを知るだけでも十分収穫になる。
「出発」
四人は森へ足を踏み入れた。
先頭を歩くシフォンは、先ほどまでとは別人のようだった。
耳が絶えず動いている。
よく見ると、鼻もかわいらしく動く。
風向きを確かめるように顔を上げることもある。
ターケシは少し驚いた。
(なるほど)
(これは人間には真似できないな)
しばらく進んだところで、シフォンが立ち止まった。
ターケシも即座に止まる。
後ろの二人も足を止めた。
「どうした?」
シフォンが息を吸い込む。
「うーん……」
少し困った顔をした。
「なんだ?」
「何かいます」
ターケシの表情が引き締まる。
「魔物か?」
「分かりません」
シフォンは首を傾げる。
「でもいます」
ターケシは腰を落とした。
「どっちだ」
シフォンが右前方を指差す。
ターケシは静かに進む。
ロザリアも魔法を使えるように集中し始める。
フィリアも周囲を見渡している。
数十歩。
さらに進む。
茂みの向こうに何かが見えた。
ターケシは息を潜める。
シフォンも緊張している。
そして。
茂みから飛び出してきたのは――
野ウサギだった。
ぴょん。
ぴょん。
ぴょん。
逃げていく。
沈黙。
ターケシはシフォンを見る。
シフォンもターケシを見る。
「……いました」
「いたな」
間違ってはいない。
全く間違ってはいない。
後ろではロザリアが吹き出していた。
フィリアも肩を震わせている。
シフォンの耳がしゅんと垂れた。
「ご、ごめんなさい……」
ターケシは首を振る。
「謝るな」
「でも……」
「ちゃんと気付いた」
ターケシは真面目な顔で言った。
「俺は気付かなかった」
シフォンが目を瞬かせる。
「だから報告としては正解だ」
「魔物かウサギかは、その後みんなで確認すればいい」
シフォンの耳が少しだけ持ち上がる。
「……はい!」
ターケシは思った。
(まずは報告する癖をつけさせる)
(それでいい)
実際、危険な森では
「気のせいでした」
より
「報告しませんでした」
の方がずっと危ない。
その頃、後ろではロザリアがフィリアに小声で囁いていた。
「意外ですわね」
「何がです?」
「もっと厳しい人かと思っていましたの」
フィリアは少し微笑む。
「…私もです」
前を歩くターケシとシフォンを見る。
先頭を歩く灰狼族の少女は、もう尻尾を元気に振りながら次の匂いを探していた。
そしてターケシは気付いていない。
自分が思っている以上に、三人が安心し始めていることに。




