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奴隷市場から始まる異世界冒険譚―第一部王都編  作者: たーけし
冒険者ギルドと最初の依頼

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ある日森の中

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ターケシは三人を見回した。

ロザリアの魔法。

フィリアの弓。

そしてシフォンの身体能力。

大まかな実力は把握できた。

「さて」

森を見る。

木々が生い茂り、昼間でも奥は薄暗い。

薬草採取の依頼とはいえ、油断できる場所ではない。

「みんなの実力は分かった」

三人が姿勢を正す。

「行くか。森の薬草採取へ」

シフォンの耳がぴんと立った。

ターケシはまずシフォンを見る。

「シフォン」

「は、はい!」

「獣人は鼻が利くな?」

「はい!」

少し誇らしそうだ。

ターケシは頷く。

「偵察だ。先頭を行け」

シフォンが目をぱちくりさせる。

「わ、私がですか?」

「ああ」

ターケシは自分の胸を親指で差す。

「すぐ後ろに俺がつく」

その一言でシフォンの表情が少し和らぐ。

「何か感じたらすぐ知らせるんだ」

「はい!」

耳が誇らしげだ。

次にロザリアとフィリアを見る。

「二人は後衛」

「後衛ですの?」

「…私は構いませんよ」

ターケシは続ける。

「ロザリアは魔法がある。フィリアは遠くを見るのが得意そうだ」

フィリアが少し感心した顔になる。

「…よく分かりましたね」

「弓を使う奴は目がいい」

前世の知識と経験からの推測だった。

ターケシは二人に言う。

「気付いたことがあったら教えてくれ」

「敵でも薬草でも足跡でも何でもだ」

「一人で判断しなくていい」

「分かりましたわ」

「…承知しました」

役割が決まった。

ターケシは内心で頷く。

いきなり戦う必要はない。

まずは隊列を覚えることだ。

誰が何を得意とするのか。

どこを見ているのか。

それを知るだけでも十分収穫になる。

「出発」

四人は森へ足を踏み入れた。

先頭を歩くシフォンは、先ほどまでとは別人のようだった。

耳が絶えず動いている。

よく見ると、鼻もかわいらしく動く。

風向きを確かめるように顔を上げることもある。

ターケシは少し驚いた。

(なるほど)

(これは人間には真似できないな)

しばらく進んだところで、シフォンが立ち止まった。

ターケシも即座に止まる。

後ろの二人も足を止めた。

「どうした?」

シフォンが息を吸い込む。

「うーん……」

少し困った顔をした。

「なんだ?」

「何かいます」

ターケシの表情が引き締まる。

「魔物か?」

「分かりません」

シフォンは首を傾げる。

「でもいます」

ターケシは腰を落とした。

「どっちだ」

シフォンが右前方を指差す。

ターケシは静かに進む。

ロザリアも魔法を使えるように集中し始める。

フィリアも周囲を見渡している。

数十歩。

さらに進む。

茂みの向こうに何かが見えた。

ターケシは息を潜める。

シフォンも緊張している。

そして。

茂みから飛び出してきたのは――

野ウサギだった。

ぴょん。

ぴょん。

ぴょん。

逃げていく。

沈黙。

ターケシはシフォンを見る。

シフォンもターケシを見る。

「……いました」

「いたな」

間違ってはいない。

全く間違ってはいない。

後ろではロザリアが吹き出していた。

フィリアも肩を震わせている。

シフォンの耳がしゅんと垂れた。

「ご、ごめんなさい……」

ターケシは首を振る。

「謝るな」

「でも……」

「ちゃんと気付いた」

ターケシは真面目な顔で言った。

「俺は気付かなかった」

シフォンが目を瞬かせる。

「だから報告としては正解だ」

「魔物かウサギかは、その後みんなで確認すればいい」

シフォンの耳が少しだけ持ち上がる。

「……はい!」

ターケシは思った。

(まずは報告する癖をつけさせる)

(それでいい)

実際、危険な森では

「気のせいでした」

より

「報告しませんでした」

の方がずっと危ない。

その頃、後ろではロザリアがフィリアに小声で囁いていた。

「意外ですわね」

「何がです?」

「もっと厳しい人かと思っていましたの」

フィリアは少し微笑む。

「…私もです」

前を歩くターケシとシフォンを見る。

先頭を歩く灰狼族の少女は、もう尻尾を元気に振りながら次の匂いを探していた。

そしてターケシは気付いていない。

自分が思っている以上に、三人が安心し始めていることに。

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