第14話 大将戦④
第四ラウンド。
MINATOが二本、紅蓮が一本。あと一本で開幕戦は終わる。
会場の空気はこれまで以上に張り詰めていた。先鋒戦から積み重なった熱気は消えるどころか膨れ上がり、観客席もコメント欄も落ち着く気配がない。
『王手きた』『でも紅蓮だぞ』『まだ分からん』『ここからだろ』『開幕戦熱すぎる』
READY。
FIGHT。
開始直後から紅蓮は前へ出た。
後がない以上、受けに回る理由はない。Leonisの牽制で距離を支配しながら少しずつLEXを押し込み、主導権を握ろうとする。
「紅蓮選手、かなり積極的ですね」
「ここは行くしかありません」
Leonisの攻撃が何度か通り、試合序盤は紅蓮が優勢だった。観客席からも歓声が上がり、コメント欄にもPHOENIXを後押しする声が増えていく。
『紅蓮きた』『まだ終わらん』『追いつけるぞ』『流石だな』
しかしMINATOは焦らない。
ここまで戦ってきて分かったことがある。紅蓮は強い。対応力も高い。だからこそ守り切るだけでは終わらず、勝つために必ず前へ出る。
(来るな)
予感ではなかった。
読みだった。
体力リードを持った紅蓮は距離を詰める。Leonisらしい圧力でLEXを追い込みながら勝負を決めに来るが、MINATOはそこで待っていた。
Leonisがもう一歩前へ出る。
その瞬間、LEXの差し返しが刺さった。
会場がどよめく。
「MINATO選手!」
「返しました!」
コンボが決まる。起き攻めが続く。投げを見せて打撃を通し、打撃を意識させて再び投げる。
ほんの数秒前まで紅蓮が握っていた流れが、一気にMINATO側へ傾いた。
『うおおお!』『LEXだ!』『速すぎる』『そこから返すのか』『面白すぎる』
それでも紅蓮は崩れない。
Leonisも応戦する。牽制を置き、差し返しを狙い、少しでも流れを取り返そうとする。
だがMINATOも止まらない。
同じ攻めを繰り返しているように見えて、少しずつ形を変えている。紅蓮が対応した頃には別の選択肢が飛んでくる。
「MINATO選手、攻めの形を変えていますね」
「試合中の修正が早いです」
試合は終盤へ入る。
体力はほぼ並び、残り時間も少ない。ここまで来るとキャラクターではなく選手同士の勝負だった。
どちらも相手の癖を知っている。
どちらも相手の狙いを理解している。
だからこそ簡単には動けない。
観客席も静かになる。
コメント欄だけが流れていた。
『頼む』『どっちだ』『分からん』『緊張する』『マジで読めない』
先に動いたのは紅蓮だった。
Leonisが距離を詰める。
MINATOも動く。
反応ではない。
ここまで積み上げてきた読み合いの答えだった。
攻撃が交差する。
次の瞬間、会場が揺れた。
カウンターヒット。
決めたのはLEXだった。
歓声が爆発する中、MINATOは迷わずコンボを完走する。Leonisの体力が消え、画面中央へK.O.の文字が表示された瞬間、実況の絶叫が会場へ響いた。
「決着ーーーーーー!!」
「MINATO選手勝利!! ORBIT開幕戦勝利です!!」
張り詰めていた空気が一気に弾ける。
観客席は総立ちになり、コメント欄も追えない速度で流れていた。
『きたあああああ!』『MINATO!!』『ORBIT勝利!』『開幕戦から神試合』『優勝候補だろこれ』
MINATOはようやく息を吐いた。
嬉しいというより先に疲労が来る。
長かった。
チーム結成。
メンバー集め。
スクリム。
環境研究。
リーグ開幕。
全部が終わったわけではない。それでも最初の一歩を勝利で終えられたことは大きかった。
向かい側では紅蓮も立ち上がっていた。
二人はステージ中央で短く握手を交わす。
「強かったな」
紅蓮が言う。
MINATOは少し笑った。
「そっちも」
それ以上は言わない。
言わなくても伝わる。
PHOENIXは強かった。
だからこそ勝てたことに価値がある。
大型モニターには試合結果が表示されていた。
ORBIT 30―10 PHOENIX
リーグ開幕戦。
その最初の勝者はORBITだった。
会場の歓声を背に控室へ戻るMINATOの表情は静かだったが、その背中だけは少し軽く見えた。リーグはまだ始まったばかりだが、今日だけはこの一勝を噛み締めてもいい気がした。




