第10話 リーグデビュー
ORBIT 10―10 PHOENIX
中堅戦が終わったあとも会場の熱気は冷めなかった。むしろ先鋒戦、中堅戦と積み上がった期待がそのまま大将戦へ流れ込み、観客席もコメント欄も落ち着く気配がない。
『LEXか?』『神楽か?』『どっちだ』『早く見せろ』『開幕戦から熱すぎる』
大型モニターに映るのは紅蓮とMINATOの名前。開幕戦の勝敗を決める最後の試合であり、同時にリーグ最初の大将戦でもある。会場中の視線がステージへ集まる中、両選手は特に気負う様子もなく席へ着いた。
「さあ大将戦です」
「先鋒戦、中堅戦と素晴らしい試合が続きましたが、最後は紅蓮選手とMINATO選手ですね」
「開幕戦からこのカードは豪華です」
キャラクター選択が始まる。
紅蓮は迷わずLeonisを選択した。PHOENIXのエースとして長く使い続けてきたキャラクターであり、ここで変える理由はない。観客も当然のように受け止めているが、問題はMINATOだった。
最近の競技シーンは神楽シン一色と言ってもいい。強化後の評価は高く、スクリムでも大会でも研究が進んでいる。MINATO自身も神楽シン使いとして知られている以上、多くの人間がその選択を予想していた。
コメント欄も同じだった。
『神楽だろ』『いやLEXあるぞ』『どっちだ』『頼むLEX』『神楽見たい』
MINATOのカーソルが動く。
神楽シンを通り過ぎた瞬間、会場が少しざわついた。予想が外れたことに気付いた人間が増えたのだろう。コメント欄にも驚きが広がる。
『あれ?』『そっち行く?』『マジか』『まさか』
カーソルが止まる。
LEX。
次の瞬間、歓声が爆発した。
「LEXです!」
「MINATO選手、LEXを選択しました!」
神楽シンではない。しかし意外というほどでもない。MINATOがLEGACYを制した時の主役はLEXだったし、今でも世界最高峰のLEX使いの一人として評価されている。神楽シンへの警戒が強くなればなるほど、LEXという選択肢は価値を持つ。
READY。
FIGHT。
試合開始と同時にMINATOが前へ出る。
様子見はない。
LEX最大の武器は圧倒的な攻撃性能だ。考える時間を与えればLeonisの対応力が生きる。だから考えさせない。ダッシュで距離を詰め、下段を見せ、投げを混ぜ、守りに入ればさらに攻めを重ねる。開始直後から会場が沸くほどの猛攻だった。
「速い!」
「MINATO選手らしい立ち上がりですね!」
しかし紅蓮も崩れない。
Leonisは派手なキャラクターではないが、守備と対応力に優れている。無理に暴れず、相手の攻めを受けながら少しずつ情報を集めるスタイルは紅蓮本人ともよく似ていた。
LEXの連携が続く。
投げ。
打撃。
下段。
投げ。
普通の相手ならどこかで崩れてもおかしくない。しかし紅蓮は耐える。ガードを続け、距離を調整し、反撃できる瞬間だけを待っていた。
(やっぱり硬いな)
MINATOは攻めながらそう考える。
想定通りだった。簡単に崩れる相手ならPHOENIXの大将には座っていない。だからこそ面白い。
そして最初に大きく試合を動かしたのは紅蓮だった。
LEXの攻めが一瞬途切れた瞬間、Leonisが反撃する。差し返しからコンボへ繋ぎ、一気に体力差を縮めると会場から歓声が上がった。さっきまでMINATOの流れだった試合が、ほんの数秒で分からなくなる。
『うまっ』『今の返すのか』『紅蓮やばい』『レベル高いな』
実況席の声も自然と大きくなる。
「紅蓮選手、しっかり見ていました!」
「だからLeonisは怖いんですよ!」
体力はほぼ互角。
時間もまだ残っている。
それでも会場の誰もが理解していた。
この試合は一瞬の判断でひっくり返る。
開幕戦の勝敗を決める大将戦は、ようやく本格的に動き始めていた。




