第3話 広がる名前
「よし、あと少し。」
天野湊はランキング画面を閉じた。現在一位。だが、それで何かを達成した気にはなれなかった。ランキングの頂点に立った実感はある。それでも意識は既にREVOLT JAPANへ向いている。ランクマッチと大会は別物だ。それは誰よりも自分が理解していた。
REVOLT JAPANまで残り一か月。
最上位帯のマッチングも以前とは様変わりしていた。プロ選手、有名配信者、海外勢、大会上位常連。今では誰と当たっても簡単な試合など存在しない。
「もう一戦。」
景虎を選択する。
マッチング開始。
数秒後、対戦相手が決まった。
【Mio】
「あれ。」
見覚えがある名前だった。
CHRONOS STRIKE界隈では有名な女性配信者。登録者数は数十万人。明るい配信スタイルと高い実力を兼ね備えた人気プレイヤーで、大会にも時々出場している。
本人かどうかは分からない。
だがこのランク帯なら本人の可能性は高かった。
相手キャラクターは玲華【舞姫】。
景虎対玲華。
差し合いが重要になる組み合わせだった。
試合開始。
開幕から数秒で湊は違和感を覚える。
玲華が前へ出る。
また前へ出る。
無理に攻めてくる。
「焦ってるな。」
玲華本来の強みは機動力と差し合いだ。だが目の前の玲華は勝負を急いでいるように見えた。
飛び込み。
対空。
ヒット。
起き攻め。
再びヒット。
体力差が開く。
玲華はさらに攻める。
景虎は差し返す。
コンボ。
画面端。
追撃。
そのまま第一ラウンド終了。
ほぼ完勝だった。
第二ラウンドになると相手も慎重になる。だが湊は既に多くの情報を手に入れていた。逃げるタイミング。暴れるポイント。守り方。試合中に見えた癖を整理しながら景虎を動かしていく。
中段。
下段。
投げ。
ガード。
再び投げ。
玲華も反撃するが届かない。試合が進むほど読み合いの主導権は景虎へ傾いていく。
そして最後。
差し返し。
カウンター。
コンボ。
KO。
WINNER MINATO
試合終了。
湊は小さく息を吐いた。
「強かったけど。」
少し首を傾げる。
もっと強いと思っていた。
いや、正確には実力を出し切れていなかったように見えた。
そんな印象だった。
その頃。
Mioは配信部屋で頭を抱えていた。
「いや無理無理無理!」
コメント欄が一気に流れる。
『MINATOじゃん』『ランキング一位』『景虎うますぎ』『格が違う』『処理されてた』『何もできてない』
「だって強すぎるでしょ!」
Mioは思わず机を叩いた。
玲華は長年使い続けているメインキャラだ。苦手なわけではない。むしろ自信がある。
それでも何もできなかった。
攻めても読まれる。
守っても崩される。
通ると思った行動が通らない。
試合が進むほど逃げ道がなくなっていく。
そんな感覚だった。
「ランク一位ってこんななの?」
コメント欄も盛り上がる。
『RJ優勝候補だろ』『大会未経験なの怖い』『景虎でこれだぞ』『化け物』『今一番話題の選手』
Mioは苦笑しながら椅子へもたれた。
悔しい。
だが納得もしている。
今の試合は完敗だった。
「RJで暴れそうだなぁ。」
その一言にコメント欄もさらに盛り上がる。
『ダークホース』『絶対注目選手』『どこまで行くんだろ』『楽しみになってきた』
一方その頃、当の本人は何も知らない。
「次いくか。」
湊は再びマッチングボタンを押す。有名配信者に勝ったことも、配信で話題になっていることも、SNSで名前が広がり始めていることも気にしていなかった。
彼にとって大事なのはランキングでも知名度でもない。
もっと強くなること。
そしてもっとゲームを楽しむこと。
そのために今日もまた次の対戦へ向かっていた。




