第23話 死闘
最終ラウンドが始まると、会場は数千人規模とは思えないほど静まり返った。敗者復活戦。負けた瞬間にLEGACYが終わる。だからこそ観客も実況も、先ほどまでの熱狂とは違う緊張感に包まれていた。
景虎とLEX。
残り体力はほぼ互角。
ここまでの試合内容も互角。
世界トップクラスのLEX使いであるガブリエル・コスタと、大会最大のサプライズとして勝ち上がってきたMINATO。どちらが勝っても不思議ではない状況だった。
「さあ最終ラウンドです!」
実況の神谷レンが声を張り上げる。
「勝てば生存!負ければ敗退!LEGACY敗者復活戦、運命の最終ラウンドです!」
カウントが終わる。
両者が動く。
先に前へ出たのはガブリエルだった。
LEXの強みは攻撃継続力にある。一度触れば終わらない連係、高難度コンボから始まる怒涛の攻め。その圧力は試合を通して何度も見せられていた。
LEXが距離を詰める。
下段。
投げ。
中段。
再び下段。
景虎はガードを続ける。
無理に暴れない。
無理に反撃しない。
相手の選択肢を観察し続ける。
「ガブリエル選手攻める!」
「LEXのラッシュが始まった!」
神谷の実況に合わせるように観客席からもどよめきが起こる。
だが湊は冷静だった。
焦りはない。
KNIGHTに敗れた直後の試合。
普通なら精神的に引きずっていてもおかしくない。
しかし今の湊に見えているのは画面だけだった。
ガブリエルの癖。
攻めの組み立て。
連係の順番。
試合開始から積み上げてきた情報が頭の中で整理されていく。
白石アキラが静かに口を開く。
「耐えていますね。」
「ここで無理に暴れないのがMINATO選手らしいです。」
「相手の攻めを受けながら情報を集めています。」
LEXがさらに前へ出る。
ガブリエルは勝負を決めにきていた。
投げを見せる。
打撃を見せる。
守りを固めさせる。
そして中段。
今まで何度も通してきた選択肢だった。
その瞬間だった。
景虎が動く。
ほんのわずかな前進。
そして拳。
差し返し。
カウンター。
会場が爆発した。
「入ったァァァァァ!!」
神谷の絶叫が響く。
景虎の拳がLEXを捉える。
湊は迷わない。
コンボへ移行する。
壁際まで運ぶ。
追撃。
さらに追撃。
体力ゲージが大きく削られる。
歓声がさらに大きくなる。
『うおおおおおお!!』
『読んだ!!』
『うますぎる!!』
『MINATO!!』
ガブリエルも簡単には崩れない。
受け身を取る。
防御を固める。
反撃の機会を探す。
世界上位常連がこの程度で諦めるはずがなかった。
再びニュートラル。
距離が離れる。
残り体力はLEXがやや不利。
だが一回の読み合いで逆転できる範囲だった。
観客席も立ち上がり始める。
誰も座っていない。
全員がモニターを見つめている。
次で決まる。
そんな空気だった。
ガブリエルが再び前へ出る。
LEXのダッシュ。
圧力。
そして踏み込み。
湊は待った。
焦らない。
相手の動きを見る。
LEXが攻撃を出す。
その瞬間。
景虎が動いた。
またしてもカウンター。
完璧なタイミングだった。
神谷が叫ぶ。
「また入ったァァァァァ!!」
白石も思わず前のめりになる。
「大きい!」
「これは大きい!」
景虎のコンボ。
壁際。
追撃。
体力が消し飛ぶ。
そして最後。
正拳突き。
KO。
大型モニターへ勝者の名前が映し出される。
WINNER
MINATO
一瞬の静寂の後、会場全体が揺れるほどの歓声が巻き起こった。
「勝ったァァァァァ!!」
神谷が立ち上がる。
「MINATO生存!!」
「ガブリエル・コスタ撃破ァァァ!!」
拍手。
歓声。
どよめき。
コメント欄も凄まじい勢いで流れていく。
『うおおおおおお!!』
『勝ったああああ!!』
『世界トップ倒した!!』
『景虎最強!!』
『MINATO!!』
『まだ終わらない!!』
湊は静かに息を吐いた。
苦しい試合だった。
一瞬でも判断を誤れば負けていた。
だが勝った。
まだ終わっていない。
ガブリエルが立ち上がる。
そして笑いながら手を差し出した。
「Good game.」
湊も立ち上がり、その手を握る。
「Thank you.」
短い握手だった。
だが互いへの敬意は十分伝わった。
大型モニターが更新される。
ルーザーズブラケット。
そこにはまだ世界中の怪物たちの名前が並んでいる。
世界王者。
各地域最強クラス。
国際大会優勝者。
誰と当たっても地獄だった。
それでも。
その中にはまだMINATOの名前も残っている。
KNIGHTとの約束は終わっていない。
決勝で待っている。
そう言われた。
ならば進むしかない。
敗者復活戦。
世界最高峰の舞台。
天野湊の挑戦は、まだ終わらなかった。




