第17話 Day2開幕
翌朝。
ラスベガスの空は雲一つない快晴だった。しかし選手たちの表情に余裕はない。Day1を突破した安堵は既に消え、全員の意識は今日の試合へ向いていた。数千人で始まったLEGACYも大きく人数が絞られ、残っているのは各地域を勝ち抜いてきた実力者ばかりだ。
ORBITのメンバーも朝早くからホテルのロビーへ集まっていた。
「眠れたか?」
「思ったよりは。」
「思ったより、ですか。」
ACEが少し笑う。
「途中で何回か目が覚めました。」
「まあ普通ですね。世界大会でぐっすり眠れる方が珍しいです。」
「ACEさんもですか?」
「初めての時はほとんど寝てませんでした。」
その会話を聞いていたREIGNも笑う。
「今だから言えるやつだな。」
「今でも大事な試合の前は普通に起きますよ。」
「それ聞いて少し安心しました。」
湊がそう言うと、ZEROがコーヒーを飲みながら口を開いた。
「緊張。」
「してました。」
「いいこと。」
短い。
だが言いたいことは分かる。
緊張しているのは本気だからだ。
会場へ到着すると昨日とは違う空気が流れていた。人は減った。しかし熱量は上がっている。どこを見ても強豪選手。どの対戦台でもレベルの高い試合が行われている。
「さあLEGACY Day2開幕です!」
神谷レンの実況が響く。
「ここからTop128、Top64、そしてTop24へ向けた戦いが始まります!」
ジェイ・パクもモニターを見ながら頷いた。
「今日が一番過酷ですよ。トッププレイヤー同士が次々に当たり始めますからね。」
『きたあああ』
『Day2開幕』
『ここから本番』
『胃が痛い』
チャット欄も朝から勢いがある。
湊はトーナメント表を見ていた。
対戦相手はアメリカの選手。
年齢は二十二歳。
使用キャラはBlade。
知らない名前だった。
だが昨日までなら気になっていた情報も今は違う。Day1を通して理解した。名前を知らないから弱いわけではない。ここまで残っている時点で全員強い。
「次の試合、準備お願いします。」
スタッフに呼ばれ、湊は対戦台へ向かった。
席へ座る。
ヘッドセットを付ける。
景虎を選択する。
相手はBlade。
試合が始まった。
開幕から互いに慎重だった。無理には動かない。少しずつ距離を測り、牽制を置きながら様子を見る。焦った方が負ける。そんな空気が画面越しにも伝わってくる。
「慎重ですね。」
速水ユウが言う。
「お互い相手を見ています。」
ジェイも頷いた。
「ここまで来る選手は不用意なミスをしません。」
最初に動いたのは相手だった。Bladeの長いリーチが伸びる。湊は一歩下がって避ける。続けて二発目。今度はその隙を狙った。景虎の拳が差し返しとして突き刺さる。カウンター確認からコンボへ繋ぎ、一気に画面端まで運ぶ。そのまま攻めを継続するが相手も冷静だった。暴れない。焦らない。守るべき場面を理解している。
強い。
自然とそう思う。
だが恐さはなかった。
むしろ楽しい。
世界大会に来た実感があった。
試合は終盤へ入る。体力はほぼ互角。あと一度の読み合いで決まる状況だった。Bladeが前へ出る。投げを見せる。打撃へ切り替える。さらに下段。連携は綺麗だったが、湊はそこを狙っていた。景虎のカウンターが刺さる。ヒット確認。コンボ。追撃。ラウンド獲得。
『うまい』
『読んでた』
『反応やばい』
『景虎きた』
チャット欄が流れる。
だが湊は表情を変えない。
まだ一本。
必要なのはあと一本だ。
Day2は始まったばかり。そして今この瞬間も、別のエリアでは世界四強たちが勝ち上がっている。アレックス・ハート。パク・ジフン。リン・シャオ。イワン・ペトロフ。世界最高峰の選手たちもまた頂点を目指して戦っていた。
Top128。
世界一への道はまだ遠い。
だが確実に近付いていた。




