第15話 Round3
LEGACY Day1。
大会開始から六時間近くが経過していた。
朝から埋まっていた会場は今も人で溢れている。しかし空気は確実に変わっていた。開幕直後の高揚感は薄れ、生き残りを懸けた緊張感が会場全体を包み始めている。既に敗退した選手もいる。ルーザーズへ落ちた選手もいる。そして勝ち続けている選手もいる。同じ会場にいるはずなのに、それぞれが見ている景色は少しずつ変わり始めていた。
「さあRound3も終盤戦です!」
神谷レンの実況が響く。
「Day1とは思えないカードも増えてきました!」
黒崎シンもモニターを見ながら頷いた。
「ここまで来ると無名選手も無名じゃありません。既に何試合も勝ち抜いていますからね。」
『世界大会怖すぎる』
『もうレベル高い』
『Day1だよなこれ』
『全員強そう』
チャット欄も盛り上がっていた。
その頃、湊は次の対戦台へ向かっていた。
相手の名前を見る。
知らない。
国籍も分からない。
だが関係なかった。
ここまで勝ち上がっている時点で弱いはずがない。
席へ座りヘッドセットを装着する。対戦相手も静かに準備を終え、スタッフの合図と同時に試合が始まった。
開幕から相手が前へ出る。様子見はない。打撃から投げ、投げから下段、下段から再び打撃へ繋ぐ攻撃的なスタイルだった。湊は無理に反撃せずガードを固める。攻めは激しい。しかし見えないわけではない。何度か攻防を繰り返すうちに相手の癖が少しずつ見えてきた。
「かなり攻めますね!」
神谷が声を上げる。
「湊選手、防戦一方ですが崩れない!」
「焦っていませんね。」
黒崎も冷静に分析する。
「相手を見ています。」
景虎が後ろへ下がる。
相手が追う。
さらに追う。
その瞬間だった。
景虎の差し返しが決まる。
カウンター。
コンボ。
壁際。
そのまま攻め継続。
暴れを潰し、投げを見せ、ガードを固めた相手へ再び打撃を重ねる。選択肢を押し付け続けた結果、相手の判断が一瞬遅れた。
そこを逃さない。
景虎の拳が叩き込まれる。
ラウンド獲得。
『うまい』
『強い』
『読み切ってる』
『景虎きた』
だが相手も簡単には終わらない。
二ラウンド目。
今度は相手が対応してきた。
差し返し。
投げ抜け。
暴れ。
先ほどまで通っていた攻めが通らなくなる。
お互いに体力が減っていく。
どちらが取ってもおかしくない展開。
湊は小さく深呼吸する。
ここ最近の練習相手を思い出す。
REIGN。
ACE。
ZERO。
世界トップクラスとの練習。
あの時間が無駄になるはずがない。
景虎が前へ出る。
牽制。
反応を見る。
相手が動く。
その瞬間を狙っていた。
カウンター。
コンボ。
さらに追撃。
体力ゲージが一気に消し飛ぶ。
試合終了。
湊はようやく息を吐いた。
勝利。
これで三連勝。
しかし余裕は全くなかった。
むしろ試合を重ねるたびに相手が強くなっているのを感じる。
席を立ったその時だった。
会場の一角から大きなどよめきが起こる。
歓声。
拍手。
驚きの声。
自然と視線が大型モニターへ向いた。
表示されていたのは試合結果。
そして。
優勝候補の名前。
その横に表示されていたのは敗北だった。
「え……」
湊だけではない。
周囲の選手たちも足を止めている。
「マジか。」
「信じられない。」
海外選手たちからも声が上がる。
世界ランキング上位。
優勝候補。
その選手がルーザーズへ落ちた。
神谷の実況も熱を帯びる。
「大波乱です!」
「今大会最大級のアップセット!」
黒崎も思わず苦笑する。
「LEGACYらしいですね。」
「本当に何が起きるか分からない。」
チャット欄が一気に流れた。
『うそだろ』
『やばすぎる』
『世界大会怖い』
『優勝候補落ちた』
『まだ初日だぞ』
湊は結果を見つめる。
実績も。
知名度も。
人気も。
何一つ勝利を保証してくれない。
勝つために必要なのは今この瞬間の強さだけだ。
その時、スマホが震えた。
次の試合番号が表示される。
Round4。
休憩する暇はない。
Day1はまだ終わらない。
数千人で始まったLEGACYは少しずつ人数を削り続けている。そして生き残った選手たちは、さらに強い相手と戦い続けなければならない。
湊はスマホをしまうと再び対戦エリアへ向かって歩き出した。
世界一への道は、まだ始まったばかりだった。




