第1話 強者の証明
「よし、今日もやるか。」
アルバイトから帰宅した天野湊は夕食を済ませると、机の前へ座りPCの電源を入れた。画面に映るのは見慣れたCHRONOS STRIKEのタイトル画面。REVOLT JAPANへのエントリーを終えて数日が経っていたが、生活そのものは何も変わっていない。昼はアルバイトへ行き、夜はひたすらゲームをする。その繰り返しだった。
ただ一つだけ違うことがある。
大会へ出る。
その事実が決まった瞬間から、一試合一試合の重みが変わっていた。
今までは強くなりたいから戦っていた。
だが今は違う。
勝つために戦っている。
「今のままじゃ足りないだろうしな。」
湊は景虎を選択するとランクマッチへ潜った。
数秒後。
マッチング成立。
表示されたプレイヤーネームを見た瞬間、少しだけ目が止まる。
【SHIRO】
「あれ。」
聞き覚えがあった。
かなり有名な名前だ。
CHRONOS STRIKEの人気配信者。
登録者数は数十万人。
大会実績こそないものの、最上位ランク常連として知られているプレイヤーだった。
本人か。
それとも偽物か。
分からない。
だがこのランク帯なら本人の可能性は高い。
相手キャラクターは武神タケル。
景虎対武神タケル。
王道同士の組み合わせだった。
試合開始。
開幕から空気が違った。
お互いに無理をしない。
前へ出る。
止まる。
下がる。
探る。
差し合いが続く。
景虎の前蹴り。
武神の牽制。
互いに一歩も譲らない。
「うまいな。」
思わず呟く。
ただ強いだけじゃない。
距離管理が上手い。
技の置き方が上手い。
相手を見る力が高い。
ランク上位には強いプレイヤーが多い。
だがこの相手はその中でも明らかに違った。
その時だった。
武神タケルが飛ぶ。
湊は反応する。
対空。
ヒット。
そこから攻め継続。
景虎の連係が通る。
体力リード。
流れを掴んだ。
そう思った瞬間だった。
武神が返してくる。
暴れではない。
読みだった。
景虎の行動を完全に狙い撃ちした反撃。
一瞬で流れが変わる。
気付けば体力差は逆転していた。
「マジか。」
湊は思わず笑った。
強い。
そして面白い。
こういう相手と戦うためにゲームを続けてきた。
第一ラウンド。
SHIRO。
第二ラウンド。
MINATO。
試合はフルセットへもつれ込む。
最終ラウンド。
残り体力はほぼ互角。
どちらが勝ってもおかしくない。
景虎が前へ出る。
武神も下がらない。
読み合い。
差し合い。
一瞬の反応。
そして。
景虎の下段が刺さった。
確認。
コンボ。
追撃。
KO。
画面に勝利表示が出る。
WINNER
MINATO
「勝った……。」
湊は椅子へ深くもたれた。
本当にギリギリだった。
あと少し遅ければ負けていた。
あと少し判断を間違えていれば負けていた。
そう思える試合だった。
相手の顔が見えないことを少しだけ残念に思う。
その頃。
別の場所では。
「負けたー!」
配信部屋で一人の青年が椅子へ倒れ込んでいた。
SHIRO。
CHRONOS STRIKEの人気配信者。
現在まさに生配信中だった。
『惜しい!』
『相手強かった』
『MINATOじゃん』
『RJ出るやつだろ』
『本物か?』
『景虎最強使い』
コメント欄が勢いよく流れていく。
SHIROは苦笑しながらリプレイを開いた。
景虎。
MINATO。
以前にも何度か当たったことはある。
だが改めて思う。
異常だった。
試合中に強くなる。
最初に通った行動が通らなくなる。
対策したはずの行動をさらに対策してくる。
普通なら試合前が一番強い。
だがMINATOは違う。
試合終了時が一番強い。
「意味分からんだろ。」
SHIROは笑う。
『それな』
『学習速度おかしい』
『大会出てなかったの謎』
『RJ楽しみ』
『結果出せるかな』
コメントを眺めながらSHIROは頷いた。
ランクマッチと大会は違う。
それは事実だ。
だが。
今日戦った感想だけはハッキリしている。
「少なくとも弱いとかは絶対ない。」
SHIROは断言した。
「本物だよ。」
配信を見ている視聴者たちも静かに頷く。
あとは大会で証明するだけ。
それだけだった。
「RJ楽しみになってきたな。」
次のマッチングが始まる。
一方その頃、湊はそんな会話が行われていることも知らず、既に次の対戦へ向かっていた。
REVOLT JAPAN開幕まで。
残された時間は少しずつ減っていた。




