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『ラウンド1から世界へ。』  作者: 龍崎
第1章  〜初めての大舞台〜

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プロローグ

「よし、勝ち。」


画面の中央にVICTORYの文字が表示される。


天野湊は軽く肩を回しながら椅子にもたれかかった。


深夜一時。


六畳ほどのアパートの一室。


机の上にはモニターが二枚、使い込まれたレバーコントローラー、飲みかけのペットボトル。


昼はアルバイト。


夜はゲーム。


十九歳のフリーターらしい部屋だった。


だが、モニターの向こうでは少し事情が違う。


登録ネーム――MINATO。


格闘ゲーム『CHRONOS STRIKE』のトップランカー。


ランクマッチ最上位層では知らない者はいない有名プレイヤーだった。


ランキング画面を開く。


表示された順位は国内上位。


周囲にはプロ選手や有名配信者の名前が並んでいる。


何度も対戦した相手もいる。


配信で見たことのある選手もいる。


中には五大大会優勝経験者のサブアカウントも混ざっていた。


そんな相手と日常的に戦っている。


だが。


「まあ、大会出たことないんだけどな。」


苦笑が漏れた。


ランクマッチの順位は高い。


実力もある。


それでも大会実績はゼロ。


プロ経験もゼロ。


スポンサーもいない。


現実ではただのフリーター。


それが天野湊だった。


湊はコントローラーを机に置き、スマホを手に取る。


SNSを眺めていると、一つの投稿が目に入った。


【REVOLT JAPAN エントリー受付開始】


その瞬間、指が止まった。


REVOLT JAPAN。


通称RJ。


CHRONOS STRIKE五大大会の一つ。


そして日本で開催される世界最高峰の国際大会。


プロ。


配信者。


海外勢。


世界王者経験者。


あらゆる強豪が集まる舞台。


毎年数千人規模の参加者を誇る超大型大会だった。


「もうそんな時期か……」


思わず呟く。


昔から見ていた。


中学生の頃も。


高校生の頃も。


アルバイトを始めてからも。


RJの配信は欠かさず見てきた。


優勝者が世界大会本戦出場権を獲得する瞬間。


準優勝者が涙を流す瞬間。


ベスト4敗退者が最後の望みを懸けて世界大会予選へ向かう瞬間。


何度も画面越しに見てきた。


そのたびに思っていた。


いつか出てみたい。


あの舞台に立ってみたい。


だが結局、一度もエントリーしなかった。


もっと強くなってから。


もっと自信がついてから。


もっと勝てるようになってから。


そう考えているうちに十九歳になっていた。


湊はエントリーページを開く。


参加ボタンが表示されている。


たった一つのボタン。


それなのに妙に遠く感じた。


ランクマッチとは違う。


負ければ終わり。


全国へ結果が残る。


観客もいる。


実況もいる。


配信もある。


本当に自分は通用するのか。


トップランカーの実力は本物なのか。


その答えが出てしまう場所だった。


だから怖い。


だが。


それ以上に。


「楽しそうなんだよな。」


自然と笑みが浮かんだ。


強い相手と戦いたい。


世界を目指すプレイヤーとぶつかりたい。


ランクマッチでは味わえない緊張感を味わいたい。


その気持ちの方が大きかった。


湊は深呼吸する。


そして迷わずボタンを押した。


【エントリー完了】


画面に表示された文字を見て、思わず笑ってしまう。


「マジで出るのか、俺。」


心臓が少しだけ速くなる。


だが後悔はない。


むしろワクワクしていた。


ここで勝てば世界大会へ続く道が開ける。


RJ王者。


世界大会出場。


世界王者。


そんな大きな夢を語るには、今の自分はまだ何者でもない。


だが、一歩目くらいは踏み出せる。


湊はモニターへ視線を向けた。


そこには景虎が立っている。


日本武術を極めた拳鬼。


最も使い込んだ相棒。


そして大会用サブキャラの神楽シン。


居合を武器に戦う侍。


どちらも何千試合、何万試合と共に戦ってきたキャラクターだった。


「よろしく頼むぞ。」


小さく呟く。


初戦敗退かもしれない。


プロに負けるかもしれない。


海外勢に圧倒されるかもしれない。


それでもいい。


戦ってみたい。


楽しみたい。


もっと強くなりたい。


その気持ちは誰にも負けない。


まだ実績はない。


まだ無名だ。


だが、挑戦する資格ならある。


世界中の強豪が集まる舞台へ続く最初の一歩。


その物語は、このエントリーから始まった。


これは――


誰よりもゲームを楽しむ挑戦者・天野湊が世界を目指す物語。

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