第13話 LEGACY開幕
LEGACY初日。
ラスベガスの朝は早かった。
会場周辺には開場前から長い列ができている。選手、観客、配信者、スタッフ。世界中から集まった人々が巨大な会場へ吸い込まれていく光景は、それだけで一つの祭りのようだった。
その頃、公式配信もスタートしていた。
「皆さんおはようございます!」
神谷レンの声が配信に響く。
「ついにLEGACY開幕です!」
『きたあああ』『始まった!』『LEGACY!』『待ってた』
チャット欄も朝から凄まじい勢いで流れていた。
隣では黒崎シンが会場モニターを見つめている。
「毎年思いますが、この景色は圧巻ですね。」
「本当にそうです。正式参加人数は六千九百八十四名、約七千人です。」
神谷が数字を読み上げるとチャット欄も騒ぎ始める。
『多すぎる』『意味分からん』『もはや戦争』
「ここから三日間かけて最後の一人を決めるわけです。」
黒崎は静かに続けた。
「初日は予選ですからね。有名選手も新人も関係ありません。まずは勝たないと話にならない。」
画面には各プールの進行状況が映し出される。
数え切れない対戦台。
次々と始まる試合。
既に敗退者も出始めていた。
「そして日本勢で注目したいのがORBIT所属のMINATOです。」
神谷が名前を出す。
「REVOLT JAPANベスト4。今大会ではダークホースの一人として注目されています。」
「世界大会は初めてですが、実力は本物です。」
黒崎も頷いた。
「問題は、この空気の中で普段通り戦えるかですね。」
その頃。
湊は自分のプール番号を確認しながら対戦エリアへ向かっていた。
周囲から聞こえてくるのは英語ばかりだ。
たまに中国語や韓国語も聞こえる。
正直ほとんど分からない。
だが、不思議と緊張はしていなかった。
隣にはREIGNがいる。
少し前まで画面の向こうにいた世界王者が、今は同じチームメイトとして歩いている。その事実だけで妙に安心できた。
「どうだ?」
「思ったより大丈夫です。」
「顔見れば分かる。」
REIGNは笑う。
「初海外大会のやつは大体もっと固い。」
「そんなもんですか。」
「そんなもん。」
少し前を歩いていたACEも振り返った。
「MINATOさん、緊張してないタイプですよね。」
「してないですか?」
「してたら昨日あんなに寝られないと思います。」
「確かに。」
昨夜は普通に寝た。
移動疲れもあったが、それ以上にやることはやったという感覚がある。
だからだろうか。
不安より楽しみの方が大きかった。
やがて自分の対戦台へ到着する。
相手は北米の選手だった。
年齢も近そうだ。
向こうも少し緊張しているように見える。
席へ座る。
コントローラーを接続する。
画面にキャラクター選択が表示された。
景虎。
迷わず選ぶ。
ここまで一緒に戦ってきた相棒だった。
「さあ始まります!」
神谷の声が響く。
「MINATOのLEGACY初戦!」
「まずは落ち着いていますね。」
黒崎も画面を見つめる。
「表情が良いです。」
試合開始。
開始直後、湊は相手の動きを観察する。
焦らない。
まず見る。
癖を見る。
守り方を見る。
数十秒後。
相手が大きく前へ出た。
その瞬間だった。
景虎の反撃が決まる。
『おおおお!』
チャット欄が一気に流れる。
神谷の声も大きくなる。
「入ったァァァ!」
「これは大きい!」
画面端。
コンボ。
そのままラウンドを先取する。
湊は表情を変えない。
まだ一ラウンドだ。
だが相手の方は少し焦り始めていた。
黒崎が静かに言う。
「初戦特有ですね。」
「大舞台になるほど、先に落ち着いた方が有利です。」
二ラウンド目。
三ラウンド目。
試合時間そのものは長くなかった。
そして。
WINNER
画面に表示される。
『勝った!』『ナイス!』『まず一勝!』『いいぞMINATO!』
チャット欄も盛り上がっていた。
湊は小さく息を吐く。
勝った。
ただそれだけのことだ。
だが世界最大級の大会で掴んだ最初の一勝には、いつもとは違う重みがあった。
席を立つとREIGNが待っていた。
「どうだった?」
「思ったよりいつも通りでした。」
「だろ?」
「はい。」
REIGNは笑う。
「お前、多分そういうタイプだと思ってた。」
少し離れた場所では次の試合が始まっている。
歓声も聞こえる。
敗退して肩を落とす選手もいる。
LEGACYはまだ始まったばかりだ。
ここから数千人が消え、数百人だけが残る。
そして、その先に進めるのはさらに一握り。
世界への挑戦は、ようやく最初の一歩を踏み出したばかりだった。




