第6話 秘密兵器
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ORBIT加入から数週間。
天野湊は都内にあるチームの練習施設を訪れていた。プロチーム専用の環境は何度見ても圧倒される。高性能なPCが並び、対戦スペースやミーティングルームまで完備されている。つい最近まで自宅で一人研究していたことを思うと、未だに不思議な感覚だった。
今日はチーム練習の日だった。
施設へ入ると既にREIGN、ACE、ZERO、そしてSAGEが揃っていた。LEGACYまで残り三週間。各自が調整を進める中、最近チーム内で一つの話題になっていることがあった。
湊のLEXだ。
ORBIT加入後も景虎と神楽シンは何度も見せてきた。しかしLEXだけは一度も実戦で使っていない。配信でも使わない。SNSでも触れない。存在を知っているのはこの部屋にいるメンバーだけだった。
「LEGACYまで時間もないし、そろそろ見せてもらおうか」
REIGNが笑いながら言うと、ACEも「正直かなり気になっています」と頷いた。ZEROも腕を組んだまま湊を見ている。
「秘密兵器。」
短い一言だったが、その声には興味が滲んでいた。
湊は苦笑しながら席へ座る。
「まだ完成してないですよ。」
「完成してたら逆に怖いです。」
ACEの言葉に小さな笑いが起きる。
キャラクター選択画面。
景虎。
神楽シン。
そしてLEX。
画面にLEXが表示された瞬間、部屋の空気が少し変わった。新キャラ発表時から注目されていた存在だが、実際に触り込んでいるプレイヤーはまだ少ない。
対戦相手はACE。
試合開始。
最初の数秒は静かだった。
お互い様子を見る。
牽制。
移動。
距離調整。
そして湊が一歩踏み込んだ。
その瞬間だった。
LEXの蹴りがACEへ触れる。
次の瞬間にはコンボ。
さらに攻め継続。
投げ。
中段。
下段。
画面端。
攻めが終わらない。
ACEも必死に防御するが、ようやく距離が離れた頃には体力ゲージが大きく削られていた。
「なるほど。」
ACEが思わず呟く。
試合は続く。
LEXは難しい。
湊自身もコンボを落とす。
判断もまだ荒い。
最適解には程遠い。
それでもキャラクター性能の片鱗は十分伝わっていた。
二本目。
三本目。
攻めが通れば爆発的な火力。
しかしミスすれば一気に形勢が逆転する。
極端な性能だった。
試合終了後、ACEはゆっくり息を吐いた。
「強いですね。」
その一言には素直な驚きが混じっていた。
「ただ、めちゃくちゃ難しい。」
「それは本当にそうです。」
湊も苦笑する。
景虎とは全く違う。
神楽シンとも違う。
求められる操作量も判断速度も桁違いだった。
だからこそ面白い。
だからこそ強い。
REIGNは楽しそうに笑った。
「面白いな。」
その表情は世界王者というよりゲーム好きの少年そのものだった。
「LEGACYで出すつもりか?」
湊は少し考える。
正直まだ足りない。
完成度だけなら景虎の方が上だ。
勝率も高い。
だがLEXには可能性があった。
今までにない武器。
世界の強豪を相手にするための切り札。
「出せるレベルまで持っていきたいです。」
その答えにREIGNは満足そうに頷いた。
部屋の奥ではSAGEが試合データを確認している。そしてしばらくしてから静かに口を開いた。
「良い判断です。」
全員の視線が集まる。
「現時点では景虎の方が完成されています。しかし将来的な上限はLEXの方が高いでしょう。」
淡々とした分析だったが、誰も反論しなかった。実際に対戦したACEも、横で見ていたREIGNも同じ考えだった。
「ただし。」
SAGEは湊を見る。
「絶対に外へ漏らしてはいけません。」
部屋の空気が引き締まる。
LEGACYには世界中のトッププレイヤーが集まる。少しでも情報が出れば研究される。対策される。だからこそ隠す。
配信では景虎。
大会でも基本は景虎。
LEXは最後の最後まで伏せる。
それがチーム全員の結論だった。
練習終了後、湊はLEXのリプレイを見返していた。ミスも多い。改善点も山ほどある。それでも少しずつ完成形が見え始めていた。
REVOLT JAPANの頃は全て一人だった。相談相手もいなかったし、自分で考えるしかなかった。今は違う。世界王者がいて、頼れるチームメイトがいて、優秀なコーチがいる。
その環境のありがたさを感じながら、湊はもう一度LEXのコンボを再生した。
LEGACYまで残り三週間。
ラスベガスの舞台で怪物を解き放つその日まで、ORBITの秘密兵器は静かに牙を研ぎ続けていた。




