第2話 天羽ミコトからのDM
夜。
天野湊は自室の机に向かい、LEXのトレーニングを続けていた。
LEGACYまで残り三週間。
REVOLT JAPANが終わってからというもの、景虎や神楽シン以上にLEXへ触れる時間が増えている。
通常技の間合い。
ラッシュルート。
起き攻め。
画面端の継続。
コンボ精度。
一つずつ理解を深めていた。
難しい。
間違いなく今まで触ったキャラクターの中でもトップクラスだ。
だが同時に面白い。
まだ誰も完成形を知らないキャラクターだからこそ研究する価値があった。
画面端コンボを何度も繰り返していた時だった。
ピコン。
Nexの通知音が鳴る。
湊は手を止めてスマホへ視線を向けた。
「ん?」
DM通知。
普段なら企業広告かスパムだと思って後回しにする。
だが表示された名前を見た瞬間、動きが止まった。
【MIKOTO】
「え?」
思わず声が漏れる。
見間違いかと思ってもう一度確認する。
認証マーク。
登録者百二十万人。
CHRONOS STRIKE界隈でもトップクラスの人気を誇るVTuber。
天羽ミコト本人だった。
恐る恐るDMを開く。
『お疲れ様です!』
『天羽ミコトです!』
『突然すみません!』
『もしよかったらコラボ配信お願いできませんか!?』
『あと格ゲー教えてください!!』
勢いがすごい。
文面だけで本人の声が聞こえてきそうだった。
湊は数秒固まる。
なぜ自分なのか。
本当に本人なのか。
一応もう一度確認する。
やはり本物だった。
「マジか……。」
思わず呟く。
REVOLT JAPAN以降、有名配信者やプロ選手と関わる機会は増えた。
それでも天羽ミコトからDMが来るとは思っていなかった。
少し考えた後、返信を打つ。
『大丈夫ですよ。』
『自分でよければ。』
送信。
数秒後。
即既読。
そして返信。
『やったあああああああああ!!』
『ありがとうございます!!!』
『本当に嬉しいです!!!』
反応が早い。
湊は思わず笑った。
その後もやり取りは続き、コラボの日程はあっさり決まった。
そして数日後。
コラボ当日。
湊は配信待機画面を見ながら少し驚いていた。
同時接続。
12000。
17000。
21000。
24000。
数字が見る見る増えていく。
「多くないですか。」
思わず本音が漏れる。
コメント欄はすでにお祭り状態だった。
『きたあああああ』
『MINATO!』
『ミコト!』
『神コラボ』
『RJベスト4』
『景虎使い』
『待ってた』
そして通話が繋がる。
「こんばんはーーー!!」
元気な声が響いた。
配信で何度も聞いた声。
天羽ミコトだった。
「皆さんこんばんは!今日は特別ゲストをお呼びしました!」
コメント欄がさらに加速する。
「REVOLT JAPANベスト4!」
「ランクマッチ元一位!」
「MINATOさんです!!」
『うおおおおお』
『本人だ』
『景虎だ』
『先生きた』
『待ってました』
湊もマイクを入れる。
「こんばんは。」
『声若い』
『好青年』
『落ち着いてる』
『思ったより普通』
ミコトが笑う。
「いやー、緊張しますね。」
「なんでですか?」
「だってREVOLT JAPANベスト4ですよ!?」
「普通の人です。」
「普通じゃないんですよ!」
コメント欄も盛り上がる。
『確かに』
『普通ではない』
『ランク一位だった男』
『説得力ゼロ』
雑談がしばらく続いた後、ミコトが少し真面目な声になる。
「実は今日お願いしたいことがありまして。」
「はい。」
「私、最近本気でCHRONOS STRIKE頑張ってるんです。」
「そうなんですね。」
「だからもっと強くなりたいんです。」
コメント欄も反応する。
『頑張れ』
『応援してる』
『ミコトファイト』
ミコトは続ける。
「それで。」
一拍置く。
「MINATOさん。」
「はい。」
「格ゲー教えてください。」
コメント欄が爆発した。
『きたああああ』
『先生』
『コーチング回』
『見たかった』
『神企画』
湊は少し考えてから頷く。
「分かりました。」
「本当ですか!?」
「まずリプレイ見ましょう。」
「お願いします!」
そこから配信はコーチング企画へ変わった。
試合映像を確認しながら一つずつ改善点を探していく。
「ここ飛ばなくていいですね。」
「はい。」
「ガードで勝ってます。」
「なるほど。」
「あと対空。」
「あっ。」
コメント欄。
『出た』
『対空』
『ミコトあるある』
『毎回言われてる』
さらに別の場面。
「ここ攻めなくてもいいです。」
「え?」
「体力勝ってるので待つだけで有利です。」
「確かに。」
「相手の方が焦ります。」
『勉強になる』
『分かりやすい』
『普通に解説うまい』
『参考になる』
配信は予想以上に盛り上がった。
気付けば二時間近く経っている。
終了間際。
ミコトが深々と頭を下げた。
「ありがとうございました!」
「めちゃくちゃ勉強になりました!」
「こちらこそ。」
「またお願いします!」
「またやりましょう。」
コメント欄が再び爆発する。
『次回決定』
『やったあああ』
『神企画』
『続けてくれ』
『師弟みたいで好き』
配信終了。
通話が切れる。
部屋が静かになった。
湊は椅子にもたれながら息を吐く。
少し疲れた。
だが嫌な疲れではない。
REVOLT JAPAN。
LEGACY。
LEXの研究。
配信活動。
そして今日みたいなコラボ。
少し前までは想像もしなかった日常だった。
それでも不思議と居心地は悪くない。
むしろ楽しい。
湊は再びCHRONOS STRIKEを起動する。
画面に映るのはLEX。
まだ誰も答えを知らない新キャラクター。
LEGACYまで残り三週間。
世界への挑戦は続いている。
そして天野湊の物語もまた、少しずつ次のステージへ進み始めていた。




